100.スーツ

 かつて、サラリーマンならスーツの1着や2着は持っているのが当たり前であった。スーツ、ジャケット、ブレザーはよく聞く言葉であるが、はたしてどのような違いがあるのか。あまり明確な基準を決めて使っているようには思えない。

 これらの言葉の意味を調べてみると、大まか以下のような意味になる。

 「スーツは、原則的に同じ生地で作った一そろいの洋服のことをいう。ジャケットは、一般に上着を意味する。特に背広型のそれをいうことが多い。洋服の発祥地イギリスでは上着全般を指す。日本でジャンパーやパーカといわれているアイテムでも、イギリスでは、基本的にみんなjacketとなる。だから上着イコールjacketということになる。最後にブレザーであるが、これはジャケットの中でもスポーティーなデザインでワッペン(エンブレム)金属ボタン、貼り付けのポケットが特徴のものをいう」となっていた。

 このように改めて言葉を定義すると、やや間違って使っているようなところもある。今後はこのあたりの使い分けをきっちりとしていこうと思う。では、日本語でいうところの「背広」は、いったいどれにあたるのか。「背広」を辞書で調べてみると、「男子が平服として用いる洋服。共布で作った上着とズボンが一組となったもの(さらに共布のチョッキを加えたものは「三つ揃い」という)で、前ボタンが一列のシングルと、二列のダブルの別がある」となっている。つまり、スーツのことである。このスーツの語源を調べると、「地名」「種別」「形状」の3種類がでてきた。まず、「地名説」であるが、ロンドンのウエストエンドに高級注文洋服店が軒を並べるサビルロー(Savile Row)という小さい通りがある。背広発祥の地でもあり、英国トラディショナルの、メッカといわれている通りの名に由来するという説である。ここで洋服をあつらえてきた明治の元勲が自分の服を「サビルロー仕立てだよ」と自慢したのが始まりだという。次に、「種類説」は、軍服のミリタリーに対してシビル・クローズ(市民服=Civil Clothes)がなまったもの。シビルがセビロになったという説。最後に、「形状説」は、フロックコートなどの背部に対して、背広は文字通り広く裁断されているからという説である。この「形状説」がもっとも漢字的にはぴったりであるが、この説が正しければジャケットやブレザーも背広でなければならないことになる。これはちょっと一般的には浸透しないだろう。個人的には地名説が気に入っているがどうであろう。なんとなく夢があっていい感じである。

 せっかく、言葉の定義をしたのであるから、ファッションの定義もしておこう。「背広」を着るおじさんにはぜひ知っておいてもらいたい。「背広」を2着買ったからといって、4種類の着こなしをしてはいけない。あくまでも2種類である。