99.山歩き(その4)

 山歩きを始めて3年になる。当たり前のことではあるが、山は季節に合わせて変化をする。ウグイスが鳴きだす、セミが鳴き始める。サクラやツツジ、ツバキが咲くことでも季節を感じる。ちょっと珍しいところでは、ヤマモモの実が黒く熟す、栗のイガが割れて実が落下する、というのもある。前者は万人が恩恵を受けるが、後者は興味のある人しか恩恵を受けない。7月になると、ヤマモモは黒く色付き食べごろになる。ちょうどこのころに栗は小さなイガを木に付ける。

 栗は特定のハイカーに人気がある。毎年栗の木の下にはイガが多数散乱している。拾った木の枝を投げつけ、イガを落としている。また時としてストックを投げつけている人もいる。そのようにして集めた栗を大事にビニール袋に収容している。なんともコスパの高い散歩である。栗に比べるとヤマモモは人気がない。子供のころは食べるものがそれほど豊富ではなかったので、ヤマモモは格好のおやつであった。木に登り、枝ぶりのいい場所で腰を落ち着け、枝ごと折ったヤマモモをむしゃむしゃと食べたものである。そんな経験のある人にとっては懐かしさはあるが、これを大量に食べようとは思わない。思い出をちょっと噛み締める程度に2、3個食べる程度である。そんなヤマモモであるが、毎年大量に収穫する人がいた。レジ袋2個分である。どうするのか聞いてみると、梅酒ならぬヤマモモ酒にするという。ヤマモモは赤く熟した程度では、まだ酸味が強いが、黒くなってくるころには甘みも増す。これをホワイトリカーに浸けると、おそらく見事な色に変色すると思われる。味に関してはそれほど期待はできないかもしれないが・・・。

 どういうわけか、今年はそのヤマモモが収穫されずにほとんどすべて落下しているのである。毎年収穫しておられた人が、今年は収穫を見送ったのである。大量のヤマモモが地面に落ちたままになっていた。鳥やイノシシは食べないのだろうか。なんとももったいないことである。ほんの数個食べただけで、なんとなく懐かしい味が思い出された。さらに数個食べて味を固定させようと試みた。しかし、年とともに感度の悪くなる“バカ舌”ではいつまで記憶できることやら。味ではなく思い出を固定させることに専念しよう。