93.うたたね

 作業に熱中している時は別であるが、あれやこれやと思案を巡らせている時というのは無性に眠たくなる時があるものである。では、ちょっと頭を切り替えるためにひと眠りしよう、とするのであるが眠ることができない。

 なぜ眠れないのか? 最適な睡眠態勢が取れないからである。椅子に座ったまま眠ろうとすると、背もたれに体重を預け、頭を左右のどちらかに傾ける。あるいは下げた状態にする。しっくりとこない。すぐに首がだるくなってしまって、うたたねの域に達するまでに進まない。次は机に頬杖を突く方法である。これも失敗である。ガクッと、頭が手から落ちる。もうこれでうたたねを続ける意欲がなくなってしまう。最後は机にうつぶせに顔をつけてみたが、眠りにつくより手が痛くなる方が早い。クッションを敷いてみたが首が痛い。

 結局あれやこれやと試している間に眠気が吹っ飛んでしまった。これではいけない。眠い時はすぐに眠れる態勢をとれることが大事である。最適なのは、散髪屋で見かける、後部へ倒れて仰向けの状態になる椅子である。これであればすぐに寝る態勢が整う。しかし、そんな大掛かりなものを購入することはできない。と思案していると、ホームセンターのキャンプ用品売り場で最適なものを見つけた。コールマンの「インフィニティチェア」である。通常はゆったりと寛げる椅子の状態である。キャンプで食後の楽しい時間を、コーヒーを飲みながら過ごすのに最適な形状をしている。この状態でロックを外すと背もたれが倒れていく、と同時に一体となった足の部分が持ち上がってくる(新幹線の座席と同じ)。最終形態はほぼフラットなベッド状態となる。ロックで固定せずに椅子状態で使用しても問題はない。これは理想のうたたね兼用椅子である。すぐに購入を決め持ち帰った。あとは日常の椅子として使えるように改良すればよい。改良点は2点、前後左右への移動を可能にするために、コロを取り付けた台に乗せ固定したこと。それにより高くなった分、机の高さを変えたことである。

 うたたねをしたくなれば、数秒でその態勢を取ることができるようになった。あまりにも態勢が良すぎて熟睡するのが問題である。うたたねのつもりでも1時間程度が経過してしまう。30分にするためには目覚まし時計が必要となる。ところが、目覚まし時計を30分にセットしていると、焦って眠れなくなってしまう。ここでまたも最適なものを購入した。調理用のタイマーである。常にこれを30分にセットしておき、うたたね開始時に“スタートボタン”を押せばいいのである。

 これらのおかげで、最高のうたたね時間を過ごすことができるようになった。しかし、しかしである。何のためにうたたねをしているのか? それによって頭をリフレッシュさせ、いい案を創出し、作品作りに生かすことが目的であったはずである。いくらリフレッシュさせても、いい案が出てこない。ただただ、惰眠をむさぼっているだけの状態である。こんなことならいい案が浮かばなくても、真剣に素材に向き合っている方がいいように思える。

 ・・・、じっくりと考えてみた。この「瞬間うたたねセット」が、かなり高品質で有用な作品となるのではないだろうか?

 “眠る”ためには“寝る”態勢が最も重要である。ということが分かった。