42.お通し

 居酒屋へ入ると、箸、おしぼり、お通しが出てくる。箸とおしぼりはわかるが、お通しがわからない。たいていの場合、びっくりするくらいのお粗末さである。もし、これをメニューに載せたとしても、絶対に誰も注文しないだろうと思われるような代物である。要求していないものが出てきて、しかも有料である。300~500円くらいが標準であろうか。内容からして、非常に利益率が高いと想像できる。もし、これを廃止するとなると、経営的にはかなり痛手になるだろう。そう考えると、店側が自主的に廃止することはない。

 お通しに対して、軽いぼったくりのような感じを持っている。スナックで水割りを2、3杯飲んで勘定を聞いたところ、奥から怖いお兄さんが出てきて10万円と言われれば、これは完全にぼったくりである。すぐに警察へ駆け込むことになる。非常に悪質なスナックということになる。では、1万円と言われればどうか? 高いなとは思いつつも、まあしょうがないかということになるのではないだろうか。これと同じように、お通しを出されてそれが1万円であれば完全にぼったくりである。1000円だと苦情が出るかもしれない。しかし、300~500円程度であれば、まあいいかということになる。たいていの場合が満足していないのであるから、「軽くぼったくられたな」という気分は抜けない。居酒屋での支払いが3,000~5,000円であることからすると、10%である。高級レストランへ行くとよくあるサービス料と同率である。サービス料、席料といった意味合いにも取れなくはないが、それはそれで気分が悪いのであるが(これらについては、どこかでしっかりと表現してみたい)・・・。居酒屋が、飲食の10%のサービス料がかかりますと書けば、確実に入るのを躊躇する。それをやんわりとかわして、苦情の出ないような形に変えたものがお通しのような気がする。気に入らなければ断ることもできるのかもしれない。しかし、一人で店に入って断れば、最初から最後まで気まずい雰囲気のまま居続けなければならない。大勢で来ているときに断れば、セコイ奴と思われそうである。この程度の金額で気まずい思いをするくらいなら黙っておこう、という気になる。あくまでも客が主役である。何を食べ、何を飲むかは金を払う側に主導権があるのであって、店側に強制されたくはない。金額の高低だけではなく、主導権の問題も絡んでくる。

 居酒屋の中には、お通しの3点盛等、手の込んだものや珍しいものが出てくる場合がある。もうこれを見ただけでニヤリとしてしまう。今日の店は大当たり。このような店は、何を食べても外れがない。お通しで稼ごうとするのではなく、お通しを通して店の味と質の高さをさらりと主張しているのである。「当店はこのレベルで勝負しています」。これは入店直後に軽いジャブ程度ではなく、いきなり右ストレートをガツンと食らったようなものである。美味い肴と旨い酒の相乗効果で、心から楽しませてくれること間違いなしである。ついつい酒を追加し過ぎ、おかげで勘定は予算の30%増しである。それでも、10%のお通しよりも納得できる。