発芽の不思議

 夏野菜を栽培するのは5月の連休頃が最適である。各品種の苗は、この時期に菜園へ植えるのに適度な大きさに育っていることが重要である。トマト、スイカ、ナス、トウガラシ等は、苗が適度な大きさになるのに日数がかかる。5月に植えようと思えば、3月には発芽していなければならない。3月に発芽させようと思えば、暖房設備のあるところでないと育成は難しい。したがって、自宅で種を蒔くのではなく、育成された苗を購入して菜園へ植えるのである。トウモロコシ、カボチャ、オクラ、キュウリ等は発芽後の成長が早く、自宅での種まきでも十分可能である。4月下旬ごろに種を蒔けば十分に間に合う。とはいっても、少しでも安全に早く発芽させるために温室を利用する。温室は南向きで周りに障害物がなければ1日中日光が入る。ポット(ビニールの植木鉢)に種を蒔き各品種ごとに並べておく。並べ方は品種ごとに南北に1列に並べて置いた。品種ごとに発芽の時期が来れば発芽が始まる。最初に発芽したのはマリーゴールド(花)である。種を蒔いて3日目に発芽が始まった。続いて、トウモロコシ、カボチャ、オクラの順に発芽した。これらは発芽の始まった順であり、各品種がすべて発芽し終わった順ではない。ここで面白いことに気が付いた。各品種とも温室の前(最も南側)に置いたものが最初に発芽していることである。発芽後数日した時点で、前(最も南側)に置いたものが最も成長が著しい。日の当たり方はすべて同じ条件である。にもかかわらず、最前列が最も発芽が早いのである。これはどう考えても不思議である。カボチャやオクラなどは最前列のほうが他よりも5日程度発芽が早かった。やはり植物にも序列というものがあり、前から順番に発芽するというルールがあるのかなと思ってしまう。各品種で、それぞれがお互いに声を掛け合いながら、そろそろ発芽したいのですが、後ろの方よろしいでしょうか? などとやり取りしながら、おもむろに発芽を開始しているのでは? 1品種だけでなく、すべてがそうであるから、余計に考え込んでしまう。いろいろと考えを巡らせていると、あることに気が付いた。最前列のポットとその他のポットの違い、にである。最前列のポットは全体に太陽があたるが、後部のポットには土の部分にしか太陽が当たらない。この差が発芽に影響を与えたのである。つまり、最前列のポットは、全体が太陽の熱で温められ温度が上昇し、他のポットよりの早く発芽温度に達していたのである。品種ごとに発芽温度というものがある。ある一定の温度以上になると発芽を開始するという温度のことである。最前列はその温度に達するのが他よりも早かったのである。こんな小さな温室の中でも、並べ方で発芽にバラツキがでるのである。差別しているわけではないが、結果として差別していたことを深く反省させられた。植物の繊細さを改めて考えさせられた出来事である。自然相手に植物を育てるということの難しさを再認識した出来事であった。