44.カキ

 カキという字を見ると何を思い浮かべるだろうか? 季節が大きく影響するかもしれない。秋なら柿だろう。さらに季節が移り、寒くなれば牡蠣になるかもしれない。今回は寒い時期に焦点を合わせ牡蠣である。英語で「R」の付く月が食べごろといわれている。これがそのまま日本に当てはまるのかどうかは定かではないが・・・。岩牡蠣は夏が旬である。ここはご愛敬、例外としておこう。

 以前、殻付きの牡蠣を、発泡スチロールの箱入りで送ってもらったことがある。見た瞬間は嬉しさを通り越して、どうしようというのが実感であった。量の多さに食べきれないという思いが沸き上がってきた。近所におすそ分けするには足りない。しかし、一家で食べるには多過ぎる。とりあえず、殻から出して冷凍することにした。この殻むきが結構難しい。ヘラ状のものを差し込んで貝柱を外すのであるが、どこにそれがあるのかわからない。最初の1個はぐちゃぐちゃになった。次からはすんなりと貝柱を外すことができ、殻のかけらが混じることもなくきれいに取り出せた。ここでまたまたびっくりである。あんなに多くあるように見えた牡蠣が、殻をむくとほんのわずかな量になってしまうのである。これならわざわざ冷凍することもない。保存用は殻を取り除き冷蔵庫へ。残りは蒸牡蠣で食べ、飽きてくると焼き牡蠣で味を変えればまた入る。これでほぼ半分の量が胃袋へ収まった。残りは翌日牡蠣フライである。そのまた残りは鍋である。これできれいさっぱりとすべて食べつくしたことになる。

 牡蠣で最もおいしい食べ方は、酢牡蛎であると思っている。牡蠣の生食は食中毒が連想されるが、かつては当たり前のように生で食べていた。ある和食料理店で、希望があれば生で出すが、「食中毒の可能性があるため、自己責任でお願いします」の貼り紙がしてあった。ここまでされると食べる気がしなくなってしまう。牡蠣だけでなくそれ以外も。ところで、酢牡蛎といっても一般的に食べられている酢牡蛎ではない。身の大きさがまったく違う。小指の先ほどの大きさでなければならない。こんな小さな牡蠣を見ることはまずない。この牡蠣をカボス、醤油、細ネギともみじおろしで食べるのである。これが驚くほど旨いのである。こんなに小さい身でも牡蠣の風味はしっかりと持っている。しかも身が酸で締まりぷりぷりになる。これは小倉(福岡県)の某和食料理店で食べたものであるが、この店以外ではまったく見かけたことはない。

 そんな思い出の多い牡蠣であるが、かつてTVで牡蠣を使った実験のような番組を見たことがある。2つの水槽に濁った海水を入れ、片方には牡蠣を数個ひもで吊るし、他方には何も入れない。そして黒い布を被せて数時間放置する。布を取り除くと、牡蠣の入った水槽は濁りが薄れ、水槽の後ろに置かれた文字が読めるようになるのである。これは牡蠣が海水を浄化する能力を示している。数字に幅はあるが、1個の牡蠣が1日に数百リットルの海水を浄化するという。では、浄化したときの汚れはどこへいったのか?・・・。まさか、夜中に牡蠣が殻の中に仕込んだフィルターを交換しているというようなことはないだろう。