54.山歩き(その2)

 山歩きを始めて数か月が経つ。歩き方や格好も様になってきた。何事も慣れたころが最も危険だという。本格的な登山ではなく、近くの標高300~400mの山であっても同じである。山歩きは尾根を歩くときと、沢沿いを歩く場合がある。夏場の山は危険がいっぱいである。とくに沢に沿って歩くときは要注意である。マムシやヤマカガシが頻繁に出没する。晴天続きのときは、落ち葉がいきなりガサガサ、と音を立てるのでびっくりするときがある。蛇が体をくねらせながら進んでいくときの音である。山道を安全に歩行するためのものではあるが、こんな時のためにもストックはぜひものである。これを持っていると何となく安心できるのである。身を守れる保証はないが、精神の安定は守れるのである。

 山歩きでもう一つ危険なのは迷子である。いつも決まった道を歩くだけでは物足りず、ちょっと別の道を歩きたくなってくる。この時が危険である。だいたいの方向感覚が出来上がっているので、それほどずれることはないだろうと思ってしまう。しかし、山道は相当曲がりくねっているうえに、周りは同じような木々ばかりで目印になるものがない。100mも歩けば、元の位置はほとんど見当がつかなくなってしまう(天性の方向音痴かもしれないが・・・)。歩けど歩けど、目的とするところへ出ない。スマホで位置情報を得ることはできるが、大まかな方向がわかるだけで、道がないのでどうにもならない。この時、決してやってはならないことがある。道(正式な道ではなく、人が踏み固めた道)を外れてやぶの中に入ることである。これをやってしまうと、絶対といっていいくらい元へは戻れなくなってしまう。とにかく下に向かって人が踏み固めた道をひたすら歩くことである。そのうちに何となくそれらしい所へ出ることができる場合が多い。どんな小さな山であっても、油断や気を抜くことは危険である。捻挫や滑落ということもある。

 山道を歩いていて気になるのは立ち枯れや倒木の多さである。人がよく通るところでは、立ち枯れの木には注意を促す貼り紙がしてある。また、倒木はきれいに切断され積み上げられているところもある。しかし、道から外れたところでは、立ち木にもたれかかって倒れたままの木が多くある。こんなにも多くの倒木があるのかと驚いてしまう。決して寿命が尽きて倒れたものではない。陽が入らないため光合成ができず枯れてしまったものや、病気(同種の木が多く枯れている)が原因のものだろうと思われる。うっそうとした森林の中では下草はほとんど生えていない。生えているのはシダ類ばかりである。あたりの木々は横には広がらず、ただひたすら太陽を求めて上へ上へと伸びている。そして葉がついているのは木の上のほうだけである。下についていても役に立たないので、落としてしまったのであろう。これが自然だといってしまえばそれまでであるが、厳しい生存競争が日々繰り広げられているのだろう。

 森林浴で新鮮な空気を吸いながら、マイナスイオンを全身に浴びてリフレッシュ。軽い山歩きは健康に最適、といった気持にはなかなかなれない。肉体的には健康そうな山歩きも精神的にはちょっと重たい。健全な肉体に健全な精神が宿ることを祈りたい。