107.不思議

 世の中には不思議なことが多い。数え上げたらきりがない。そんな多くある不思議の中でも最も身近な不思議について考えてみたい。今、足元に落としたものが見つからないのである。机に向かって作業をしている時、肘にあたって小さなものが落下する。数回床をはねる音がする。それによって大体の行方は察することができる。おもむろに椅子から立ち上がり、それを拾おうとするが見当たらない。確かに音の方向はこちらからであったことを再度確認するが見当たらない。しばらく探し続けるが見当たらない。もうこうなると、意地でも探し出してやろうという気になってくる。しかし見つからない。まさかとは思うが、違った方向を探してみる。そうすると、たいていまったく予期しないようなところに転がっているのを発見する。どうして? ここから落ちて、跳ねる音が数回し、あちらの方向へ行ったはず・・・。しかし、出てきたのは全く違う方向から。

 これは納得できない。早速再現テストである。同じ場所から同じものを落としてみる。もちろん探す時間を短縮するために、落下する状況を見続ける。何度やっても落ちたところからほとんど移動しない。たまに移動しても、跳ねたり転がったりする音の方向と変わらない。そればかりか、物陰や机の脚の後ろ側へ回ったりはしない。すぐに見つかるところに転がっている。結局再現テストは失敗である。こういう不思議が何度もあり、そのたびに数回再現テストをするが、すぐに見つかるところにしか移動していない。

 落としたものを回収するため、とっさに耳が音に反応する。しかし、どうも耳が瞬時に対応できていないのではないだろうか? いつでも反応できるように待機状態にしておけば、音の方向に追随できるのかもしれない。しかし、この状態を維持することは現実的ではない。ではどうするか? 音と同時に素早く行動を起こし、目で落下物を追いかけるのである。これならどこへ転がろうとも方向は確実に確認できる。うまくすれば、最終到達地点を確認でき回収することができる。という結論に至り、この方法で落下物を回収することを心掛けてきた。しかし、これにも欠点があった。落下した瞬間に、体の死角に入り見えなくなるのである。結果として、そこから音を頼ることになり見つからないのである。

 このようなことが何度か起こり、最近では悟りを開いた。物が落下した場合、真下を確認し、その後見える範囲をしっかりと見まわす。その時点で見つからなければ捜索をやめる。そのうちに見つかることに期待する。これを実行するだけで心の負担はかなり軽減された。ただし、高価なものや危険なものは例外である。