3.本(その1)

 週に2、3回書店に立ち寄る。寄ると必ず本を買ってしまう。それも複数冊。家に帰ると、その中から最も興味のあるものを1冊選び読み始める。購入したそれらの本を読み終わらないうちに、また書店へ立ち寄り複数冊購入する。そして今読んでいる本を読み終えると、直近に購入した本に目が行き、以前に購入した本は机に積んだままとなる。これが何回も続き、今では十数冊の本が順番を待っている状態である。購入時はそれなりに興味があったのであるが、時間が経てば興味はどこへやら。しかし、こんなことをしているとそのうちに机の上が本だらけになるので、定期的に処理をすることになる。興味は無視して、先入れ先出しである。この間は書店への出入りを禁止しての作業となる。とにかく苦痛な数週間を過ごさなければならない。買ったものを読み切ってから買うように決心するのであるが、毎回同じようなことになってしまう。賞味期限が切れるわけではないが、興味期限が切れてしまうのである。この期間が意外と短いので自分でも驚いてしまう。

 最近、書店もあちこちに大型店ができ、夜遅くまで営業しているので非常に便利になった。どこの書店も多くの人が入っており、よく繁盛しているように見える。阪急梅田駅にある某大型書店などは、大勢の人でごった返している。しかし、その割にはレジに並んでいる人の数が少ない。購入する人よりも立読みをしている人のほうが圧倒的に多いのであろう。本を購入するために来たのではなく、待ち合わせや時間つぶしに立ち寄っている場合が多いのかもしれない。雑誌などは立ち読みが多いせいでよれよれになっていることがある。週刊誌などは特にそうである。よく見ていると、本を購入するときは、2、3冊下のほうから選び出して購入している人が多いのに気がつく。結局、一番上の本は売れ残ることになるのだろうか? それともこの本を適当な日数で数冊下へ移動させているのだろうか? 店によってはこのような余計なことを考えないで済むように、一番上の本に「見本」というシールを貼っているところがある。立ち読みする場合は、この本だけにしてください、他の本を汚さないでください、ということであろう。そう理解すれば、書店は立ち読みを認めていることになるのではないだろうか? 立読みをしていない書店はないというぐらい立読みが多い。この行為は、本から無料で知識を吸収していることになる。もっとはっきりというと知識や情報を盗んでいるのである。NTTの番号案内は有料である。しかし、本に出ている電話番号を書き写しても料金は請求されない。上記の某大型書店などは、本棚に近づくこともできないぐらい人が立っているコーナーがある。長時間にわたり専門書や情報誌を読んでいるなどというのはもってのほかである。パソコンやスマホを使えば、情報を得ることや検索が無料でできることと同じように考えているのかもしれない。こんな具合であるから、立ち読みなんぞはほとんどみんな罪の意識なく行っている。本を読んでも頁数が減るわけでもなく、形が小さくなるわけでもなく、ましてや本に書かれた情報量が減るわけでもない。しかし、確実に本は劣化する。商品を傷ものにしているのである。だから、購入時に数冊下のものを選んでいるのではないだろうか。本の本来の目的からすると購入して読むべきである。そのような考えのため、タイトルだけを見て、中身を吟味しないまま購入するので、いざ読み始めると想像もつかなかったような内容の本もある。それを避けるためには、やはり、ちょっとだけは中身を確認してから買うほうが賢明である。窃盗とまではいかないが、「ちょい悪おやじ」ぐらいで許してもらえる程度まで吟味するべきである。吟味の必要性についてもう少し付け加えると、ごくまれに同一タイトルの本を購入していることがある。読み始めて「あれっ」と気が付く場合と、タイトルをまじまじと眺めていて気づく場合がある。前者は、タイトルにインパクトがなく、内容にも興味がわかないまま読んだ場合などである。後者は、まだ読んでいないのであるが、タイトルにややインパクトがあるので、どこかで見たような気がしてくるのである。おもむろに机の上にある多くの未読の本を見ていくとたいてい出てくる。がっかりである。お金をむだにしたことも当然であるが、それ以上にタイトルさえも覚えていないということが情けない。つい先日などは最後まで読み終わってもまだ気が付かなかった。習慣で、気になった文章があると抜き出して記録している。その作業をしているときにふと気が付いた。調べてみるとやはり読んでいた。5ヶ月程度前である。そのとき抜き出した文章とは数ヶ所が同じであった。2度読んでもやはり同じようなところが気になるものだな、と思わず感心しそうになったが、すぐに正気に戻り、自分の情けなさにがっかりした。さらに、これでもかといわんばかりなのが、その本のタイトルである。立ち直り不能なぐらいがっかりさせてくれる。『ぼけの予防』・・・ 遅かったか?