ナメクジ捕獲大作戦

<その1>

 わが菜園内で悪行を働く2大悪党として、ダンゴムシとナメクジが君臨している。特定の野菜や果物を主とする害虫は多く存在するが、彼らは手あたり次第に悪さをする。特にナメクジに至っては、ほとんど好き嫌いをせず片っ端から食べていく。活動時間が夜と雨降りであるため、ほとんどその行動を目にすることはない。朝起きて、菜園内をパトロールして気が付くことになる。食べるのが遅いため、食べ終わるまでに夜が明けてしまい、イチゴなどはぽっかりと穴を開けられたまま残されている。そして翌日になると、今度は昨日と違うイチゴを食べ始める。このようにして、次から次へと穴を開けて回る。どれか一つのイチゴに決めて食べてくれるのであれば、それはそれで目をつぶらないこともない。しかし、多くのナメクジが、毎日違ったイチゴを食べることになるので、そのままにしておくと、半分以上のイチゴに穴が開くことになる。(この件については対策済みなので、最近は被害を受けることはない。)(長期戦のイチゴ参照)

 わが菜園内にはどのくらいのナメクジがいるのだろうか? 多くの野菜や果物に被害を及ぼすのであるから、それなりの数はいるのだろう。しかし、それなりでは納得できない。具体的な数字が欲しい。数百? 数千? ・・・それ以上? 想像するに、数千はいそうな感じである。もし、夜中に菜園内をパトロールして、これだけのナメクジがあちこちを動き回っていたら・・・。そのまま気絶してしまうかもしれない。いやそれ以上に、菜園内で収穫したものを食べられなくなってしまうかもしれない。

 こんな好奇心と恐怖感をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせると、やっぱり具体的な数字を追いかけたくなってくる。そこで、ナメクジの大好物といわれているビールをエサに、大捕獲作戦を実行することにした。偶然にもナメクジと大好物が一緒である。したがって、本来ならば、作業後にグビッと美味しくのどを潤すビールの数本分を彼らに提供しなければならなくなった。このことがなんとも悔しい。しかし、好奇心を満たすためには我慢が必要である。

 

<その2>

 5月も中旬になり気温が上昇し、ナメクジが活発に活動する時期になった。菜園内11か所にナメクジトラップを設置することにした。ここで好奇心が捕獲大作戦に横槍を入れることになった。ビールにもいろいろ種類がある。本物のビール、その他の醸造酒、ノンアルコールビール等である。はたして、ナメクジは本物のビールが分かるのであろうか? 違いの分かるやつなのだろうか? という疑問が出てきた。これは試さないわけにはいかない。というよりは、経費節減のためには最優先の項目である。キリンの一番搾り(生ビール)、キリンののどごし生(その他の醸造酒)、アサヒドライゼロ(ノンアルコールビール)の3種類を購入した。トラップを設置する条件を極力同一にして、それぞれのビールを注いだカップを夕方設置した。 “壮大なる実験”の真っ最中のため、菜園内では野菜を栽培していない状態である。きれいに整地された状態のため、菜園中央部には全く隠れる場所が見当たらない。ほとんどが菜園周辺部の石や落ち葉の下あたりを住家にしているものと思われる。したがって、トラップもそのあたりに集中的に設置することにした。

<左から本物、醸造酒、ノンアルコール>

 

<潜んでいそうな草むら>

 

<菜園中央部>

 

<敷物の下は湿気ムンムン>

 

<その3>

 待ちに待った朝が来た。菜園内はシ――――ンと静まり返っている。さて結果はどうか。ドキドキしながらトラップを回収していく。結果を見て唖然とした。一番搾り:87匹、のどごし生:25匹、アサヒドライゼロ:15匹であった。ナメクジの捕獲数からビールの格付けは一番搾り>のどごし生>アサヒドライゼロ、ということになる。圧倒的に本格ビールに多くのナメクジが集まった。確かに一番搾りは美味い。しかし、のどごし生も負けないくらい美味い。さすがにノンアルコールビールはそれらに比べるとやや美味さに欠けるところはある。ノンアルコールビールも出始めの頃のものと比べれば、雲泥の差がある。それくらい美味くなっている。それでも本物に比べると、まだもう一息というところか? 一番搾りはのどごし生に大差をつけてぶっちぎりである。もし、目をつぶってこの2種類を飲み比べたとき、確実にいい当てられる自信がない。この点に関しては、ナメクジに負けたことを認めざるを得ない。そのことがなんとも情けない。ナメクジの嗅覚(味覚?)恐るべしである。こんな難敵を相手にしているのであるから、ちょっとやそっとのことでは敵の目を欺くことはできないのである。今後は、さらに綿密な対策を講じることにしよう。

 ビールの銘柄でも実験をしてみたかった。各メーカーが出しているビールで、最高級品を試したかった。しかし、これはメーカーからのクレームが怖そうなのでやめることにした。ここは一般論に結論が出た、ということで納めておくことにしよう。もし、ビールメーカー各社がスポンサーになり、賛同してくれるようなことになれば、銘柄別の飲み比べ大会をぜひ実施してみたい。優勝したビールには間違いなく“第1回ナメクジの飲み比べ大会優勝”の文字が大きく印字されるであろう。違いの分かるナメクジが推奨するのであるから、これはかなりの名誉ということになる。ビールメーカーさんの参加をお待ちしております。

<これほど差が付くとは・・・>

 

<その4>

 ビールの違いがはっきりしたところで、もっと大量に捕獲しなければ捕獲大作戦とはならない。さらにビールを大量に投入し、文字通り捕獲大作戦を行った。第2回目は123匹。第3回目:104匹、第4回目:86匹、第5回目:25匹(注1)、第6回目:93匹。一向に減る気配がないどころか、このまま続ければ資金が底をつきかねない。そんなある日、ふと疑問を感じた。雨がしとしとと降っている日の夕方であった。前日仕掛けたトラップを見て回っていると、明るいにもかかわらずナメクジが活発にトラップに入っていた。一通り様子を見て戻ってくると、今度はトラップから一斉に逃げ出そうとしていた。 ???・・・なぜ人が近づいたのが分かったのか? 不思議である。朝トラップを回収して回る時、すべて内部で溺死しているものばかりである。動き回ったり、逃げ出そうとしているものはいない。と、いうことは、夜中に一定量のビールを飲んだ後、逃げ出したものがかなりの数いるということなのか? いわゆる食い逃げ(飲み逃げ?)というやつである。自制心のないナメクジだけが溺死し、理性のあるナメクジは朝方にとんずらしたということになるのか? 嗅覚だけではなく、計算高さでも負けたことになるのだろうか?

 というわけで、このまま続けてもあまり効率よく捕獲できていない、ということが判明した。費用対効果に好奇心とやる気を加味した結果、ナメクジ捕獲大作戦を終了することに決定した。558匹を捕獲したが、環境のいい我が菜園ではすぐに元の数に戻ってしまうだろう。いや、それ以上の数に増えていることだろう。菜園主にとっては最悪でも、ナメクジにとって最高の菜園ということになるのだろう。一度でいいから、全ナメクジが勢ぞろいしたところを見てみたい。感動が先か気絶が先か? これは見ものである。

注1:経費節減のためビールを水で薄めてトラップに使用した。嗅覚の鋭いナメクジなら、この程度のことでビールの判別を間違えることはないと思ったのが間違いであった。やはり本物志向のナメクジにとって、水で薄めたビールなど飲めるか! といったところか。その後は、せこいことをせず、本物一本での勝負をした。

<2回目>

 

<3回目>

 

<4回目>

 

<5回目>

 

<6回目>

 

【緊急追加】

 捕獲したナメクジを数えていると、ふとビールが飲みたくなった。決してトラップに使ったエサがビールだったからではない。飲みたくなるような、いい匂いがしてくるのである。何の匂いかわからなかったが、徐々にそれらしい物の形が見えだしてきた。・・・イカの塩辛である。それに近い匂いがしてくるのである。ビールに浸ったナメクジが乾燥してくると、イカの塩辛のような匂いがしてくるのである。ここまではよかったのであるが、ここから先が問題である。その後、イカの塩辛を食べる気力が失われてしまったのである。匂いと色、形、何よりもそのぬめり感が、異常なくらい一致してしまうのである。イカの塩辛が食べられないからといって、食生活に問題が生じるわけではないのであるが・・・。食べ物に関しては、全く好き嫌いなく食べることができる、というのが唯一の取柄であったのだが・・・。