アリとイチジク

 イチジクの木の下は、雑草が生えないように遮光シートを敷いている。木の下に雑草が生えると、もぐり込んで抜かなければならない。非常な苦痛を強いられるので、その対策である。雑草が生えてこないところを見ると、光はほとんど通さないようである。水はわずかながらしみ込んでいる。このような状態でイチジクを栽培している。

 夏も真っ盛りになると、イチジクが程よく熟してくる。イチジクのあの独特な匂いとともに、赤黒く熟した実が徐々に軟らかさを増してくる。このころになると、実が枝から外れて自然落下しそうになる。完熟した実は最高の美味さを提供してくれる。しかし、いつもいつも確実に収穫できるわけではない。ここにも敵が潜んでいるのである。アリである。菜園の片隅の巣穴から出てきた働きアリと思われる優秀な連中が、菜園内を常時パトロールしている。登らなくてもいいイチジクの木に登り、完熟した実を発見するのである。状況は逆かもしれない。いい匂いのする方向へ行くとイチジクの実が生っていた、という方が正しいかもしれない。とにかく彼らはイチジクの実を発見してしまうのである。こうなると後は彼らが得意とする数の論理である。次から次へと隊列を組んだ黒い物体が押し寄せてくる。そして、イチジクのお尻の部分の穴から中へ入り食べ始める。

 アリは道端で獲物(セミやミミズ)を得ると、その獲物の下に巣を作っていることがよくある。今まで生活していた巣はどうなってしまうのかはよくわからないが、地産地消をモットーにしていると思われる。そこに居を構えてしまうのである。ところが、イチジクは木になっているので、地産地消というわけにはいかない。せっせと巣とイチジクを往復している。大変な作業量である。イチジクから巣までは3mくらいである。人間にすればたいした距離ではないが、アリにとってはとてつもなく長い距離である。持ち帰るまでに、収穫したイチジクを食べきってしまうのではないだろうか、と心配してしまう。そこは働きアリの強靭な精神力が我慢を可能にしているのだろう。

 ある日、そんなアリの行列がなくなってしまった。と同時に、今まで集中攻撃をして食べていたイチジクがなくなっていた。あれほど大きなイチジクを食べきったのか、と感心しながら木の下を見回した。落下していないところを見ると、やはり食べきったのだろう。

 イチジクの収穫も終わり、鳥対策に掛けていたネットを外すときが来た。ぐるりと張り巡らしたネットを外しているときに、砂を被った塊を発見した。3個あり、それらに多くのアリが集まっていた。つついてみると、紛れもなくイチジクである。その場所は、雑草除けの遮光シートから外れた場所である。そのイチジクの下に巣を作っていたのである。数日前まで木に生っていたイチジクが落下したと思われる位置から30cmはずれている。柔らかくグニュッとしたイチジクが転がるはずはない。そうするとアリが動かした? イチジクの大きさからすると100gはある。それほど重いものを動かすことは可能なのだろうか? しかも、今回落下したもの以外に2個も同じ場所にあるのである。また新しい課題が見つかった。「アリパワーの実証」である。確認でき次第HPにアップしたいと思う。

<砂で覆われたイチジク>

 

<防鳥ネット>