秩序

 天気のいい日は山歩きをする。曇った日や雨の日にはしない。自然と接するのは天気のいい日に限ると思い込んでいる。雨や曇りの日にもそれなりに素晴らしいと思うのであるが、何よりも気分よく、というところに引っかかってしまう。ここに自分なりの悪しき秩序が出来上がってしまっている。

 4月末ごろの天気のいい日に山歩きをした。某寺の奥の院へ通じる参道を歩いている時であった。ここは毎年多くのつつじが参道を彩る。赤、ピンク、白の3色である。見事に満開である。桜もそうであるが、つつじも一斉に咲く。数百メートルにわたって植えられているので壮観である。日当たりのいいところもあれば、日陰の場所もある。それでも一斉に咲く。温度差など気にしていないかのようである。ひょっとすると、町内会長のようなリーダー格のつつじが音頭を取っているのかもしれない。そろそろ世間が期待している時期なので一斉に咲きましょう、などと書かれた回覧板を回しているのかもしれない。それくらい見事に咲く。一糸乱れぬ咲き方である。これをもって秩序といわずにいられない。しかしこれだけならたいしたことではない。秩序と書く以上はもっとすごいことがあるからである。

 参道沿いに一斉に咲いたつつじを思い浮かべてほしい。これは絶対に、近づいて一つ一つ見るのではなく、やや離れたところから全体を見るのが最も美しいと感じるだろう。桜と同様である。こうすることで一面が花の帯のようになる。赤や白、ピンクもある。見事としかいいようがない。赤、白、ピンクが区切られて植えられている。そのピンク帯にさしかかった時にふと足が止まった。花びらはピンクであるが、一部に筆で掃いたように赤い色がついている。これはなかなかきれいなものだなと感心していた。しばらく見つめていると、何やら法則性があることに気が付いた。この筆で掃いたような赤は必ず花びらの上部にある。赤い花はどうか? これも同様にさらに赤い色が上部についている。白い花には見当たらなかった・・・が、よく見ると同様であった。薄い黄緑色が上部についていた。無秩序にあちこちで好き勝手な方向を向いて咲いていると思っていたが、きっちりとした秩序があったのである。どの色の花もすべて筆で掃いたような色は花びらの上部についているのである。

 桜同様に、季節が来れば一斉に咲くものと思っていたつつじがこれほどの秩序をもって咲いていることに驚いた。

 つつじ全般の花ことばは「節度」「慎み」らしい。花の咲き方からは想像できない花ことばである。しかし、じっくりと花びらを観察すればどちらの花ことばにも納得がいく。

 

<参道にずらりとツツジ>
 
 
<ピンク>
 
 
<赤>
 

<白>