71.燗酒

 寒い冬に鍋で一杯、あるいは新鮮な刺身で一杯。このようなときは日本酒も燗をして飲みたくなる。熱燗かぬる燗か? 意見の分かれるところではあるが、熱い鍋の時はぬる燗がいいように思う。ところで、酒の飲み方関しては、冷酒、常温、ぬる燗、熱燗程度かと思っていたが、どうやらとんでもなく多いようである。調べてみると、飛び切り燗(55度)、熱燗(50度)、上燗(45度)、ぬる燗(40度)、人肌燗(37度)、日向燗(33度)、冷や(常温)、涼冷え(すずびえ)(15度)、花冷え(10度)、雪冷え(5度)と11種類にも分ける場合があるようである。

 日本酒を飲む場合は、常温と上燗程度にしたものを比べて飲むことにしている。理由は、いつも常温で飲んでいる日本酒を、たまたま燗をしたときにその旨さに驚いたからである。全く別の日本酒になっていた。常温では想像もしなかった旨さが出ているのである。その変化の振れ幅に感動したからである。それ以来、日本酒を飲むときは必ず燗をするようにしている。しかし、その時以来、それほど大きく変化をする酒に巡り合っていない。

 一言で燗をするといっても、その方法はいろいろである。最も理想とするのは、錫のちろりを専用の容器に入れ湯煎するのである。なんとも風情を感じ、燗酒がさらに旨味を増しそうである。しかし、毎晩そんな風情に酔っていられない。さっさと日本酒を飲みたいからである。そこで、手っ取り早く燗をするためにレンジでチンをする。これで早い、旨いが完成である。

 ここでちょっとした疑問がわいてくる。日本酒はビールのように一気には飲まない。ちびりちびりと飲むことが多い。1合徳利で飲んでも、最後は熱燗が日向燗程度になっている。それはそれで、温度による味の変化を楽しめばいいのであるが、どうも納得がいかない。最初に決めた熱燗、あるいは上燗の温度で飲み干したいのである。しかし、そのような構造をした容器は見たことがない。徳利やぐい飲みに保温機能が備わっているものを知らない。それにもかかわらず、これだけの種類の呼び方があるのが不思議である。店によっては、燗酒の温度にかなりはっきりとした方針を打ち出しているところもある。ビールと同じで、最初の一杯は非常に旨いが、あとは惰性というのではもったいない。そこまで燗の温度にこだわるのであれば、最後までその温度で飲める工夫が必要な気がする。最後は燗冷ましでは、ちょっと情けないように感じる。本当にしっかりとしたいい造りの酒は、燗冷ましでさらに旨くなる、ということを聞いたことがある。それはごくまれなことで、日常飲む日本酒がすべてそうであるとは限らない。

 世界中には多くの酒が存在するが、日本酒とワインに関しては自己主張をする人が多すぎるような気がする。いくら講釈を述べても構わないが、理屈にあった納得ができる講釈が必要であるように感じる。