9.ツール・ド・フランス

  7月1日から23日(期間中に休日が2日間あり)まで、世界最大の自転車レースであるツール・ド・フランスが行われている。毎年この間は寝不足に陥る。年中行事の一つになって、20年以上になるかもしれない。楽しいような、つらいような、わくわくしながら寝不足でふらふらする3週間が始まった。それでも最終日にパリ、シャンゼリゼの石畳を走るころには、あーー、もう終わりか、3週間なんてあっという間だな、という思いにさせられる。海外旅行と同じで、あーー、明日はもう帰国か、というのと同じ感覚である。例年は各ステージとも、スタートしてから2~3時間後から生放送が始まっていた。それでもゴールまでは4~5時間かかる。今年はスタートからゴールまで、すべてのステージを生放送で見ることができる。嬉しいような悲しいような複雑な気持ちである。見る時間は6~7時間にも及ぶ。1日の4分の1である。これが毎日続くのである。

 趣味としてロードレーサーに乗るのは、月に2、3回、距離にしてサイクリングロードを100kmくらい走る。ここ数年はヒルクライムに挑戦するということで、ロード、エアロバイクを合わせて年間で3500km程度を走っている。この距離をわずか3週間で走り切るのである。それも尋常ではないような峠(アルプスやピレネー)を、恐ろしいほどのスピードで連日走るのである。今年のツールは例年以上に山間部を走る日程が多い。六甲山ヒルクライムの逆瀬川ルートで1級山岳程度だろうか? 1日にこの程度を2、3山越え、さらにそれ以上の超級山岳を越すというようなコースもある。最近、電動アシスト付のロードレーサーが発売された。これを使わなければ絶対について行けない。それでも1山が精一杯だろう。距離が長すぎて、確実にバッテリーが切れてしまう。スポーツの中では最も過酷なものではないかと思う。

 このような過酷なレースをする選手の体を見て、連日反省させられている。腕はびっくりするくらい細い。これであの前傾姿勢を長時間にわたってよく支えられるものだと感心する。最も大きな動力源である脚を見てもそれほど太くたくましい脚には見えない。競輪選手のような瞬発力を要するスポーツではないにしても細過ぎるくらいである。陸上競技のマラソン選手並みといった感じである。レースを見た後、ちらっとだけ我が腹部を見てみた。情けないくらいガッカリとさせられる。ヒルクライムをするために10kgの減量をしてもなお、腹回りに余裕がある。本気でヒルクライムをしようと思えば、筋力を落とさず、さらに10~15kgの減量は必要である。体脂肪率は12~13%程度にしなければならないだろう。

 レースでは個人やチーム同士の駆け引きが激しく行われている。いきなり数人が逃げを打ってみたり、それを集団がつぶしにかかったりと手に汗握る展開がたまらない。思いがけないパンクや落車もある。最高の見どころとなるのはゴール前スプリントである。チーム全員がたった一人を勝たすために全力でサポートするのである。もう全くTVの画面から目を離せない。目を離すのは、焼酎のお湯割りのお代わりを作る間だけである。ピーナツはほとんど無意識につまんでいる。おっと、ぼりぼりとピーナツを食べ、焼酎を飲んでいる場合ではない。体脂肪率のことを忘れていた。明日から真剣にやろうときつく心に決めて、とりあえず今日のところはもう少し飲も。

 ツールが終わるまでは、あと10kgの減量をしてでも、来年もう一度ヒルクライムに挑戦してみよう、という気持ちが崩れることはないだろう。しかし、終わると同時に、「ちょっとゆっくり寝たいなぁ」「やっぱり減量はきっついなぁー」「何もそこまで真剣にやることもないかな?・・・」という甘いささやきが、耳鳴りのように止むことなく聞こえてくるようになる。さあ、大変である。これからしばらくは自己との真剣で厳しい格闘が続く。結論次第では、またまたヒルクライムに挑戦ということになりかねない。まあ、とりあえずもう一杯だけ飲んで、気持ちを整理することにしよ。