山歩きをしていると、ストックを使用している人を多く見かける。ほとんどの人は1本であるが、中には2本使用している人がいる。普通に手を振って歩くようにストックを使用している。急な山道や長距離を歩くと足の疲労は相当なものである。ストックを使うことで、足にかかる負担を軽減することができる。足だけでなく手も補助で使うことで楽に歩くことが出来そうである。そう考えると1本ではなく2本の方がバランスはいい。体全体で歩く感じである。

 ストックを使っている人を見ると、やや短いような気がする。肘を直角に曲げた程度の長さである。上りにはいいが、下りはもっと長いものの方が使い勝手がいい。自分の位置よりもさらに下にストックを突いたとき、身体がくの字になって下りにくい。長ければほぼ直立の状態でストックを突ける。

 というわけで、自分に最適なものとなると、いつものように自分で作るに限る。早速材料探しである。太さ、長さ、外見のよさそうなものが手に入ったが、材質はわからない。・・・話は続くがこの間が非常に長い・・・材料を完全に乾燥させるために、2年間風通しのいい日陰に放置した。ひび割れることもなく、いい状態を保っている。表面の皮がぼろぼろと剥がれ落ちるので、これを処置しなければならない。すべてきれいに削り取ってしまうのである。サンドペーパーでこするが、これではでこぼこした凹部が削れない。これを残せばきれいな模様として表現できる。しかし、なんとなくしっくりとこない。すべてをはぎ取り、真っ白な木肌を出したい。では、どうやってこの凹部の皮を取り除くか? 凹部にも入り込む研磨手段を探すことになる。これほど細かいところへ均一に入るものというものは想像がつかない。しばらく放置である。放置することでいったんこの件から離れる。そうすることでいいアイデアが浮かぶことがある(今まではそうであった)。

 ペンキ塗りをしている時に、手にペンキが付いた。とっさにコンクリート床に手をこすりつけてペンキを拭い去った。その時の手の感触で、コンクリート上の砂が気になった。早速菜園内の土をとりバケツに入れた。何度も何度も水洗いして、粘土成分を落とし、きれいな砂にした。手袋をはめた手で砂を握り、木をごしごしと磨いた。見事に失敗であった。仕方なく削り切れなかった表皮はそのまま模様として使用することにした。

 急な山道を上り下りすると、ストックを握る手にものすごい力を入れなければならない。これを補助してくれるのがストック上部に付けられたストラップである。これに手首を通し、体重の一部をこれで受け止める。これがなければ手の握力だけでは耐えきれない。今回作成した杖も、これを付けなければストックとしての効果は半減以下である。これを付けることで魔法の杖と化すのである。登りではストラップを使用し、下りでは杖の上部を持つことで楽に下ることができる。

 長期使用にも耐えられるように工夫を1点。杖の先端である。常に岩や土に接し、力がかかっているので割れたり摩耗したりする。これを防止するために、先端にφ10mm×100mmの穴をあけ、全ねじを埋め込んだ。この先端を20mm程度出すことで、杖の先端の摩耗は防げる。

 下部は見事にねじれている。数年かけて植物のツルが巻き付いてできた模様である。あまりにも見事なのでその植物が気になった。この太さのツルといえばアケビだろうと思われたが違っていた。どうやらフジのようである。ヤマフジ、アケビはツルの巻き方(注1)が反対なのである。

注1:ツルの巻き方には諸説があり、右巻きと左巻き、S巻きとZ巻き、左上巻きと右上巻きといったところである。諸説と現物を突き合わせたところフジに落ち着いた。

<凹部の表皮>

 

<ストラップの取り付け>

 

<先端部分の全ねじ>