98.同時通訳

 早朝にNHKのBS番組を見ていると、海外のいろいろな放送局がニュースを伝えていた。もちろんそれぞれの国の言語である、と思われる。英語以外はほとんどわからないので、TV画面右上の国名を見て、それらしい国の言葉であろうと思い込んでみている。中国語や韓国語ならもっとわかりやすい。普段から聞きなれているからである。海外のニュースは早口でしゃべるアナウンサーが多いように思う。多くのニュースを限られた時間内に伝えようとするのか、それとも早口で伝える方が臨場感があっていいからそうするのかはわからない。とにかく早口な人が多い。早口を非難しているのではない。たとえゆっくり話されても全くわからないのであるから。ただ、あまりにも聞きなれないテンポで言葉が発せられるのに違和感を覚えるのである

 そんな違和感のあるテンポに、さらに追い打ちをかけるのが同時通訳である。どこの国の言語でも、全く意味のない言葉をだらだらと並べたてることはないと思う。当然一つ一つの言葉に意味があるに違いない。そうすると、その早口でしゃべっている言葉をすべて同時通訳しなければならないことになる。そうすると当然同時通訳も早口になる。この同時通訳がなかなかすんなりと理解できないのである。決して同時通訳が間違っているとか、日本語になっていないとか言うような大それたことを言いたいのではない。普段と違う速さで耳から入ってくるので言葉を処理しきれないのである。耳から脳への伝達に問題があるのか、単なる脳の処理速度の問題なのかはわからない。とにかくニュースの内容がうまく理解できていないのである。

 ここで、ものは試しと同時通訳をしてみた。日本語しか話せないのにどうやって同時通訳をしたのか? 簡単である。標準語で流れてくるニュースを母国語(方言)に変換するのである。普段使い慣れている大阪弁であるが、これがなかなか出てこない。もちろんイントネーションも大阪弁である。どうしても標準語に引きずられてしまう。大阪弁に変換しようと脳が考えている間に流れてくる標準語は記憶できていない。結局その部分は飛ばして次へ行くことになる。まったく意味がつながらない同時通訳になってしまう。

 学生時代に英語、ドイツ語、社会人になってから中国語を少しかじった。しかし、自慢ではないが、どれも全くものになっていない。読む、書く、喋る、全くお粗末この上ない。結果から言えば、時間の無駄であった。同時通訳というのは脳の特殊な使い方なのではないだろうか。基本的に1言語しか処理できない脳の構造で、他国語を理解しようとしたのが間違いだったのかもしれない。

 やっぱりおおさかべんがいちばんよろしおまんなー。のうがようはたらきよりますわ。ろうかぼうしにはほうげんがいちばんでんな。これでぼけろうじんにならんですみそうなきぃがしまっせ。

 立教大学名誉教授の鳥飼玖美子さんが新聞の「オピニオン」欄に投稿されていた。「言語というのは思考の源であり、(自分は何者かという)アイデンティティの核なんですね。だから、英語という外国語を学ぶと、日本人としてのアイデンティティが揺らぐかも知れない」、「英語を使うということは異文化コミュニケーションをすることだという視点が必要です」

 東京で11年間過ごしたが、大阪人としてのアイデンティティは持ち続けたし、異文化とコミュニケーションをする気は全くなかった。というわけで、同時通訳ができないのは当たり前ということになる。