112.住宅考

 住宅の形態は大きく2つに分けられる。戸建てか集合住宅か? 集合住宅の場合それぞれの持ち分の境界線ははっきりとしている。戸建てはどうか? 新興住宅地であれば、業者がそれぞれの土地の境界線に鋲を打ち、はっきりと境界線が表示されている。しかし、古くからの住宅地では、そのようなはっきりとした境界線が示されていない地域が多い。阪神淡路大震災で被害を受けた住宅地がその例である。自宅が被害を受け、家を再建しようとしても隣家や道路との境界線がはっきりとしない。古い住宅地では、家の敷地の角に大きな石を置き、そこまでが自宅の敷地であると主張する場合がある。これにいたっては、関係者が協議をして納得するまで再建は進まない。

 新規に造成された住宅地には道が規則正しく通り、その両脇の土地は、すべて一様に四角形で大きさも等しく仕切られている。そこにさまざまな形の家が立ち並ぶ。一見和やかで閑静な住宅地に思える・・・・。この光景はおそらく数年間だけであろう。5年もたてば確実に問題が生じることになる。どんな問題が生じるのだろうか? 越境問題である。新興住宅地のほとんどすべての家に庭木が植えられている。この庭木は家主が注文したものもあれば、施工主が新築祝いとしてプレゼントする場合もある。どちらも新築に見合った植木を選択している。5年後、10年後を想定して選択はしていない。それらの植木が5年たてばどうなっているか? 新興住宅地を一回りすれば結果はすぐにわかる。低木でない限り毎年驚くほど成長する。5年もたてばほとんどの木がベランダに達する。庭木の手入れを趣味にする人はほとんどいない。ましてや高齢になれば脚立に上って木の上部を剪定するなどということは不可能である。次第に伸び放題ということになる。隣家とは低いブロック塀や柵で仕切られているだけである。当然、毎年伸びる枝は隣家との境界線を越えることになる。邪魔だからといって、勝ってに切ることはできない。木の所有権は隣家にあるからである。そこで両者の話し合いが行われることになる。関係がうまくいっていれば何の問題もないがそうでない場合は大変である。

 上記のような家主は道路側への枝も伸ばし放題である。広い道であれば気にはならないが、人がどうにかすれ違うことができるような狭い道では大変である。春から夏にかけての成長が早い時期は特に気になる。傘をさしていればなおさらである。きっちりと木を管理しようと思えば、年間に3度は剪定が必要である。これを毎年確実に実施するには相当な労力を要する。自宅の庭に植えた木である。家族とともに暮らしてきた木である。ペット同様に接する必要があるように思う。いくら豪邸に住んでいても、庭の外観を見ただけで人格まで見透かされてしまうというのはあまりにも情けない。

 これから家を建てようとする方は、庭木の選定を十分に考慮されたい。低木かつ横に広がらないこと。境界線から十分に自宅側に入ったところに植えること。高齢になると脚立に上っての作業ができなくなることも考慮する必要がある。

 人間も植木も境界線を越えて他人を侵害しないことである。