小物入れ

 この材料は黒檀の板に規則正しく穴が開けられた板材である。おそらく数珠か宝飾品用に用いるために球状にくり抜いたのだろう。したがって、本来は廃材である。しかし、この廃材に値札が付けられている。売る側としては一定の価値を見出してのことだろう。買う側がこれの価値を認めない限り売れることはない。なかなか価値を認める人がいなかったため、しばらく店頭に置かれていた。それはそうである。明らかに廃材とわかり、穴が開いていて使い道も限られるものを買う人はいない。ところがどういうわけか、衝動買いをしてしまった。何かを作ろうという気持ちはまったくない。ただ、置いておけば、いつか、何かに使えるという感じがした。

 しばらくアトリエの棚の上に置かれていたが、ある日ふとこれを見たときに小物入れを作ろうという気になった。穴の開いた小物入れは成り立たないが、穴よりも大きいものを入れれば十分に役に立つ。中が見えるのもいい。

 さて、作業開始である。最大の難関は、切断部分の穴をどうするかということである。このままでは接合することができない。何とか策をめぐらし、箱状にした。蝶番と留め金具を取り付け小物入れが完成した。しかし、何となく満足感がない。やはりこれらの穴は飾りの機能しか持ってはいけない。いくら小さなものを入れても落ちることがあっては小物入れの機能を果たさない。穴が開いているので中が見えるのはいい。しかし、落ちてはいけない。これらを両立させようと思えば、透明のアクリルで覆えばいい。内部をアクリルで4つに仕切った。もちろんふたの部分にも張ってある。これで中身の見える小物入れの完成である。しかしながら、残念なことにいまだに入れるものがない。このようなものに入れるべき小物を持ち合わせていない。創作意欲だけで必要性のないものを作ることに問題がある。・・・いや、必要性は問題ではない。作ることに意義があるのである。