20.富士山ヒルクライム(2019年)

 <その1>

 ビワイチが終わったと思ったら、休む間もなくまたも富士山ヒルクライムである。年々体力が落ちていくのを実感しながらのヒルクライムである。年中行事の一環として組み込んでいるが、いつ、どのような形で切り離そうかと日々考えるようになってきた。

 ヒルクライムを行うにあたり、毎年それなりの練習はしているつもりであるが、いかんせん、何よりも大事な体力が徐々に落ちているのである。もちろん維持向上を目指しているのであるが、なかなかそうはいかない。維持どころか低下が当たり前となってきた。毎年のことではあるが、この低下度を測定するために行っていることがある。それは2種類のヒルクライムである。1つは、すぐ裏山で行うミニヒルクライムである。距離3.4km、平均斜度5.2%を上るのである。数年前はここを13分30秒で上っていた。去年は14分かかった。今年は何と14分30秒である。この程度の距離と斜度でもはっきりとわかるのである。たまたまとか偶然というのではない。確実に遅くなっているのを数字で確認するというのはつらいものである。全身の筋力が徐々に衰えているのであろう。大会の開催1か月前にはこのヒルクライムを連続で5本やるのであるが、最後は16分30秒程度を要する。5本上る体力はどうにか維持しているが、速力という点ではかなり劣化してきていることを実感する。もう1つは、あの恐ろしい六甲山ヒルクライムである。最高タイムが64分である。去年は67分かかった。ミニヒルクライムからもその結果は予測できる。しかし、六甲山ではそれを追認したくない。何とか去年並みを維持したい。とは思いつつも、ひょっとして完走できないかもしれないという不安がよぎる。タイムよりも完走できるかどうかの方が心配である。何しろ勾配が半端ではないからである。最初に上った時のように、急坂部分での屈辱的な着地をするかもしれない。六甲山に関しては、ミニヒルクライム実施後、1週間程度後の天気のいい日に実施している。週間天気予報を確認しながら実施日を決める。

 

<その2>

 その恐ろしい六甲山ヒルクライムを実施する時が来た。これに臨むにあたり、中途半端な気持ちでは行えない。もちろん二日酔い状態で上るようなことはしない。前日は午前零時までに寝酒をやめ就寝である。なるべく早朝の涼しい時間帯に終えたい。阪急逆瀬川駅を9時30分にスタートする。何度も何度も走ったところである。あまりにも記憶が鮮明なため、次々と急勾配が浮かんできて余計に疲れる。恐ろしいほどの急勾配が数か所ある。そこへさしかかると、かつてその苦しみに耐えた時の思いが浮かんでくる。ここはかつても今も「根性」あるのみである。これしか乗り切る方法が見当たらない。やや気弱になりかけているメンタルに鞭を入れ続ける。体力は落ちたが要領は良くなっている。適度にダンシングを入れながらこぎ続ける。気温が低い割には大汗がでる。脚、腰、おしりと痛むところは多いが、まだ我慢の許容範囲内である。

 どうにか頂上の一軒茶屋に到着した。結果は68分である。去年より1分遅いタイムでの完走である。途中信号で2度止まったが、それがなければ67分は可能であっただろうと思われるが、意外にもっと時間がかかったかもしれない。理由として、信号で止まった後のこぎ出しが非常に軽やかだったからである。要するにいったん休憩しているのと同じ状態だからである。こんな些細なことにこだわっている場合ではない。完走できたことを喜ばなければならない。まだ、六甲山を上ることができる体力があるということを喜ばなければならない。富士山ヒルクライムを行う上で、十分に自信を持つことができる材料である。

 裏山のミニヒルクライム、六甲山ヒルクライムを考え合わせると、今年の富士山ヒルクライムがおおよそわかる。そのおおよそわかるタイムを少しでも上回るように、体調を万全にし、全力を出し切って、今年も無事に終えたいものである。今年で3度目となる富士山ヒルクライムである。準備や要領は十分に出来上がっている。あとは好天を祈るばかりである。去年のような雨はこりごりである。ぶるぶると震えながらの下山は勘弁してもらいたいものである。「吉田のうどん」程度では体の震えが止まらない。

 

<その3>

 今年で3度目となる富士山ヒルクライムである。河口湖もそろそろ見慣れた景色になりつつある。ここは7、8割が外国人である。欧米人も目立つが、アジア系の人が多い。日本人を見かけることの方が少ない。そのたまに見かける日本人が富士山ヒルクライムに来ている人たちである。そしてヒルクライムの行われる前日と当日は、車の7、8割が県外ナンバーになる。地元の富士山ナンバーはほんのわずかしか見かけない。人も車も地元の人にとっては肩身が狭そうである。

 毎年、エントリーするために前日の昼頃には到着している。ロードバイクを組み立てて会場まで行き、その帰りに夕食を食べ、寝酒とつまみ、翌日の朝食を購入してホテルへ帰るのである。しかし、いまだに夕食のいい店を見つけられないでいる。ちょっと遠出をしても、なんとか美味しい店を見つけたいという気持ちはあるのであるが、翌日のことを考えるとそんなに夕食に時間を費やすこともできない。ということで、今年は去年気になっていたほうとうを食べることにした。河口湖駅の前にある「ほうとう不動」へ入店。ほうとうは1種類のみで、それ以外には蕎麦がある。ここではもちろんほうとうを食べることにする。何しろこの地方の名物なのである。それは大きな鉄なべに、多くの野菜と太く歯ごたえのあるほうとうが入っている。味噌味で出汁がよく利いていて非常に旨い。ビールを飲みたかったが、寝酒のことを考えるとここはぐっと我慢をすることにした。

 毎回難しい選択を迫られるのが晩酌と寝酒である。かつて、1週間の禁酒をして臨んだこともあったが、結果はそれほど変わることがなかった。それ以上に寝つきの良さと熟睡度を考慮すると、適度な酒量がベストであるように思われる。酒以上に影響を及ぼすのが睡眠不足である。去年は夜中にいびきで目が覚めた。あまり造りのいいホテルではないため、上下両隣の音が聞こえるのである。一昨年の宿は最悪であった。廊下を歩く足音と軋み音が同時にして、深夜まで寝付けなかった。今年はこの轍を踏まないためにも耳栓はぜひものとして携帯することにした。適度な酒量に耳栓、これで完璧な睡眠を約束されたようなものである。

<お土産用のカップほうとう>

 

<その4>

 完ぺきな準備のおかげで十分な睡眠をとることができた。柔軟体操をして、頭と体を目覚めさせる。朝食は必要最小限で水分をやや多めにとる。あとは会場でエネルギーチャージ用のゼリーを飲めば十分である。減量がうまくいかなかったので、最後の手段として直前の食事を減らし、わずかでも軽くしたいというせこい手を使うことにした。要するに、ゴール(富士山の5合目)まで走り切るエネルギーがあればいいのである。その後はガス欠でも、事前に飲食物をゴールへ持ち込んであるので大丈夫である。

 富士山ヒルクライムの1回目は天気に恵まれ気分良く走ることができた。2回目は台風が近づいていることもあり、1日中どんよりとしてずっと霧のなかであった。下山時には雨に降られ、ぶるぶると震えながら降りてきた。そして3回目となる今回は最悪である。前日はどうにか晴れ間も見えたが、富士山はずっと雲の中で一度も顔を見せなかった。当日は朝から小雨が降っている。TVのお天気チャンネルはそれでも「くもりマーク」を出し続けている。これによると雨は午後3時から降ることになっている。実際には朝からずーと雨であった。全くいい加減である。朝の気温は14℃、ゴールの五合目では10度を下回っているかもしれない。十分な防寒対策が必要である。たっぷりと着込んだそれらが十分すぎるくらい雨を吸い込み、ずっしりとするくらい重たくなった。せこい減量対策をあざ笑うかのようである。

 スタート前にびしょ濡れになるのは嫌である。荷物にはなるが合羽の上下で出かける。会場で脱ぎ、サドルバッグに詰め込む。スタート地点まで準備運動を兼ねて1km程度の走行で体を温める。計測開始地点を過ぎたところからしばらくの間急勾配が続く。その後もゴールまでには10か所程度の急勾配がある。今年は特にこの急勾配に対応ができなかった。ここへさしかかると一気に多くの人に追い越されるのである。それを過ぎると人並みの速度で走ることができる。これの繰り返しである。したがって、どんどん後ろから来る人に追い越されるのである。減量の失敗に加えて雨による重量の増加が加わり、相当頑張って追い込んでいるにもかかわらずスピードが出ない。減量の必要性を十分すぎるくらい思い知らされた。

 こうして走り続けること124分、去年より11分遅れでようやくゴールである。体力の低下は実感していたが、これほどまで遅いタイムになるとは思わなかった。体力不足だけでなく、減量の失敗と雨による体重増加分もあると思いたい。理由はともかく、今年も去年同様にヨレヨレでのゴールである。倒れ込みたいくらいフラフラである。

<富士山は見えず>

 

<雨の中のスタート>

 

<その5>

 どうにか今回も無事にゴールを果たした。疲れをとるために、しばらくゆっくりと腰を下ろしていたいがそうはいかない理由がある。例年のことで十分すぎるくらいわかっていることがある。一刻も早く着替えをして、下山の列に並ぶことである。1分遅れると10分、いやそれ以上下山が遅れるような気がする。これだけ多くの人がいれば、雨を避けられる場所がない。雨が降る中での着替えである。少しでも手際よく着替えて濡れる時間を減らしたい。素早く合羽の上下を着こんで下山の列へ向かう。去年はウインドブレーカーで失敗した。寒さと雨はウインドブレーカー程度ではどうにもならない。相変わらず列の先頭が見えない。高速道路で渋滞に引っかかると、全く動けない状態になるのと同じである。とろとろと走っていると、いつの間にか渋滞が解消して通常通りに走っている。全くそれと同じ状態になるのである。準備しておいた水と簡易食料を口にしながら下山の列へ向かう。

 急いだ甲斐があり、例年よりは相当早く下山を開始することができた。上下とも雨合羽で風を通さないので寒さはいくらかましである。下山時は雨によるスリップが怖いので、とろとろとした走りである。それだけにブレーキを掛ける手に力が入る。精魂尽き果てての下山である。ぶるぶると震えることもなく下山した。今年は吉田のうどんを食べる必要はない。完走証明書を受け取りいそいそとホテルへ向かった。ここからは例年通りでロードバイクをまとめ宅急便で送る。富士山駅の近くにあるヤマト運送山梨松山センターへ急ぐ。今回で3回目のお世話となる。傷をつけないように十分な注意を促す。ロードバイクを預け身軽になるとがぜん元気が出てくる。

 さて、今回向かうところは鎌倉である。ここはかつて訪れたことがあるのだが、ほとんど記憶として残っていない。唯一、鮮明に残っているのが銭洗弁財天である。それも、ザルに入れた小銭をじゃぶじゃぶと洗ったことだけを鮮明に覚えている。そのご利益かどうかはわからないが、その後小銭で困ったことはない。ただ、大銭の話になると・・・・。ということがあったので、今回はその大銭をじゃぶじゃぶと洗うことにした。ご利益で大銭に困らない人生を送れればこれほどありがたいことはない。・・・とは思うのだが、たしか2020年ごろに新紙幣に切り替わるような話があったように思う。そうなると、ここでじゃぶじゃぶとやった「福沢諭吉」さんに対するご利益はそれまでということになるのだろうか? 「渋沢栄一」さんへは引き継がれないのだろうか? このあたりのことは、銭洗弁財天さんの方で業務の引継ぎをしっかりとやってもらいたいものである。そうしてもらえると、心配することなく楽しい老後を送ることができる。

 鎌倉は1日で回るにはあまりにも広すぎる。適当に的を絞って回らなければすべてが中途半端になってしまう。ぼやけた過去を無視すると、ほとんど初めての場所ということになる。そうすると、季節的にはアジサイを見ないわけにはいかない。鎌倉にはアジサイの名所が多くあるが、やはりここは「長谷寺」を差し置いて他はないだろう。ここはぜひとも行ってみたい。かなりの混雑が予想されるので朝一がいい。ここへ来ればわずか目と鼻の先である鎌倉大仏も見ておきたい。続いては、鎌倉のメインである鶴岡八幡宮である。ガイドブックを見ていると、報国寺の竹林もきれいである。これらを一気に回ることにした。

 予定はこれで完璧である。それよりも今夜の美味しい酒とつまみに関してはまだ決まっていない。雨の鎌倉をぶらぶらと歩きながらそれらしい店を探す。いい雰囲気のビストロを見つけた。オランジュと書かれている。前菜5種盛(鎌倉野菜のピクルスや煮物、蒸し物、自家製パテ、鶏レバームース)、藤沢生ハム、ブルーチーズグラタン、羊肉とキャベツのブレーゼ、どれも最高に旨い。これに合わせるのはすべて恵比寿の生である。これを1品に1杯。つい先ほどまで、ヒルクライムは重量がいかに響くかをひしひしと感じていたにもかかわらず、早くもカロリーオーバーである。

 

<その6>

 鎌倉での宿泊地は長谷寺の近くを選んだ。もちろん早朝に長谷寺を訪れるためである。朝8時30分長谷寺着。朝から雨である。まだ早い時間であったが、けっこうな数の人が訪れていた。五分咲き程度のアジサイを見て回る。アジサイをじっくりと見るのは久しぶりである。最近では自宅近辺でアジサイを見ることがなくなってしまった。それだけ戸建てでの植樹の種類が変わってしまったのだろう。なんとなく懐かしさを感じながら一通り見て回った。庭園はきれいに手入れされて見事である。これぞ「日本の庭」という感じである。満開を迎える時期には入場制限がかかり、最長時には1時間待ちになるという。

 続いては鎌倉大仏である。歩いて5分程度である。こちらは長谷寺に比べるとぐっと感動は小さくなる。何層にもなった大仏を見ていると、かなり苦労して作ったのだろうな、と想像してしまう。暑さがこたえるのであろう、背中の喚起窓?が痛々しい。晴れていれば電動アシスト自転車で回るつもりをしていたが、あいにくの雨のため江ノ電とバスを利用することにした。

 江ノ電で鎌倉駅まで行き、そこからは徒歩で銭洗い弁才天を目指す。途中、歩道のいたるところに海抜と避難場所が示されていた。津波の恐ろしさが数字で表されているのである。昨日は富士山ヒルクライムで標高2300mまで上っていたのが信じられない。さて、銭洗い弁才天である。急勾配の坂を上るとその中腹にトンネルがある。そこを抜けると目的地である。1万円札数枚を握りしめ一目散にその場所へ。ここでしばし考えこむ。ざるが大・中・小と3種類ある。どれを使えばいいのか・・・。わずかな札なので小ざるでごしごしとやることにした。ここで心の迷いを出してはいけない。一心不乱にお願いをする。これでもかというほど洗った。色落ちするのではないかと思われるくらい洗った。これで完璧である。しかし、このびしょぬれの札をどう保存すればいいものやら・・・。

 鎌倉駅に戻り、鶴岡八幡へ行く。駅のロータリーを抜けて大通りに出ると、大きな鳥居が目に飛び込んでくる。この正面に鶴岡八幡がある。この通りの左側に参道の小町通りがある。いかにも観光客目当てといった店が並んでいる。ほとんど見ることなく素通りである。

 ここからはバスで報国寺へ行く。ここには見事に手入れされた竹林がある。しかし、この竹林に入るのに参拝料が必要になる。・・・何に参拝するのか? 見物料、入場料なら理解できるが。竹林にも雨がよく似合う。しっとりと濡れた竹は、より濃い緑色をしている。ここでちょうどランチタイムとなった。上ってくるときに見かけたフレンチの店へ入店。年配のシェフが一人で切り盛りしておられる。肉、魚、それに野菜の種類と量、そしてそれぞれに対する多様な調理法がすばらしい。これだけでも十分に料金以上のものを感じるが、これにデザート2種類とコーヒーが付く。もう1本ビールを追加したかったが、まだ昼なので我慢することにした。最高に美味しいランチを食べることができて大満足である。ショップカードには「デトックスお野菜が美味しいセゾン」と書かれていた。

 一通り観光を終え、そろそろ帰り支度である。今日一日のまとめをするために喫茶店へ入った。ひっそりとして人もまばらである。作業がはかどるのでありがたい。そのありがたさは帰りの会計で一気に冷めてしまった。コーヒー1杯が870円である。うまくできたものである。ランチとコーヒーを合わせてトントンということになった。前日の天気予報では、一日中雨となっていたので気が重かったが、雨の鎌倉もいいものである。晴れていれば見られないような素晴らしい景色に出会えた。何事も先入観は無用である。現状を素直に受け入れ楽しめばいいのである。さて、そろそろここを出て、新横浜へ向かうことにしよう。これで今年の富士山ヒルクライムは終了である。

<長谷駅>

 

<長谷寺1>

 

<長谷寺2>

 

<長谷寺3>

 

<いきなり出現>

 

<哀愁漂う後ろ姿>

 

<海抜11.1m>

 

<銭洗い弁財天入口>

 

<どれを使おうか?>

 

<鶴岡八幡1>

 

<鶴岡八幡2>

 

<報国寺1>

 

<報国寺2>