農薬

 毎年イチゴを100株程度栽培している。収穫を終えると実付きのよかった株から翌年用の苗を採取する。他でも書いたように、実付きの多かったものは株が弱っており、ランナーの発生が少ない。しかも勢いがなく、小さな苗が2、3株とれる程度である。仕方なく、それほど実付きがよくなかった株からも苗をとることになる。このような状態なので、毎年それほど多くの収穫を望めない。

 収量が多くない理由はそれ以外にもありそうである。毎年苗をとって栽培していると、病気に感染することがある、というような記事を読んだことがある。そして、じっくりとわが菜園の苗を見てみると、葉の一部に黒い斑点のある苗があることに気が付いた。早速調べてみると、この症状に最も近い病名は「炭そ病」ということになった。この病気は年間を通じて発生し、根が侵されると枯れてしまうという。そういえば毎年数株が枯れている。雨の当たるところで栽培すると発生しやすく、感染性があるので他の苗にうつることも考えられる。症状の出ているものはすぐに撤去することにした。

 やはり、毎年継続して栽培を続けていると、このような病気で苗を失うことになってしまうのである。そこで今年は新規に苗を購入することにした。大手種苗会社にネット注文をした。10月中旬にわが菜園へ新しい仲間がやってきた。同封されていたペーパーを見てびっくりである。そのペーパーには「いちご 農薬履歴証明書」と書かれていた。生産地と農薬の有効成分名、回数が表示されていた。なんと、使用された農薬は20種類、回数は28回である(種類によっては4種類、4回というものもある)。イチゴがランナーを伸ばすとそこに子苗が次々と出てくる。それらを子苗として採取するまでに3、4か月くらいかかる。この間に28回も農薬を散布されているのである。ここまで徹底しないと商品として売ることができないのだろう。わが菜園のイチゴたちは数年間、一度も農薬を使用されたことがない。そして使用する土は菜園内の土を循環させて使用している。これらのことから考えると、病気が発生しない方が不思議といえるかもしれない。

 農薬に関してもう一つびっくりしたことがある。イチゴの種類によって使用する農薬が全く違うのである。農薬の名称だけを見ていると、とても同じイチゴとは思えない。かつてよく耳にした名称は「ダナー」や「宝交早生」である。それが今では「とちおとめ」「さちのか」「紅ほっぺ」等々、20種類程度はよく聞く名称である。しかし、種類は200種類を超えるという。これらからより理想的な品種に改良していくので、それぞれが持つ長所や短所が入り混じり、あるいは変異したりして、全く別の性質をもつものに変化したのかもしれない。その結果として、いろいろな病気に感染しやすくなったのだろう。「日本は耕地当たりの農薬使用量は世界一」という文章を見たことがある。もちろんイチゴの苗を栽培している場所も耕地に入るので、ここで使用された農薬も加算されているのだろう。あまりにも完璧なものを生産しようとするがゆえに、このようなことになるのだろう。ここまでして品種を改良・維持する必要があるのだろうか。病気にかかりにくい品種への改良も必要なのではないだろうか?