88.老人と帽子

 高齢者に帽子をかぶる人が多い。特に男性に多い。男性は小さいころから帽子が好きなようである。子供のころから、プロ野球チームのマークが入ったキャップをかぶっている。高校生や大学生になると、ニット帽をかぶっているのをよく見かける。夏でもお構いなしである。くそ暑いのによくかぶっているな、と思うこともしばしばである。その後は社会人となり、仕事上、対人関係が増えてくるとオフのとき以外は帽子をかぶらなくなる。その状態を数十年続け、リタイヤすると急に帽子をかぶる人が増えてくる。いきなり子供に戻るのか、それとも数十年間我慢してきたからのかわからないが、帽子をかぶる人が多くなる。キャップ、ニット帽、ハンチング、ベレー帽などであるが、やはり子供のころの影響か、キャップが最も多いように思う。中にはフェルトハットを粋にかぶった人も見かける。このような人はたいてい、服装もかなり粋である。ファッションの一部として、あるいは自己アピールのアイテムとしてかぶっているように見受ける。それに比べると、という表現をすると失礼になるが、キャップをかぶっている人の多くにファッション性は見いだせない。ただかぶっているだけといった感じである。ではなぜただかぶっているだけなのか。かぶるにはそれなりの理由があるはずである。子供のころ、夏の日差しの強いときは、帽子の着用で日射病対策をしなさい、と言われたものである。それを考えると、夏場は確かに効果を認められるが、冬に帽子はあまり関係ないように思われる。しかし、高齢者は冬でも帽子をかぶっている。むしろ、冬の方が多いように思う。

 スポーツクラブに通っていると、普段は見ることのできない光景を見ることができる。つまり、帽子を脱いだ状態を見ることができるのである。ここで、はっと気が付いた。帽子をかぶっている人の多くに共通点があることが分かった。毛が薄いか、もしくはほとんどないのである。では、そのような人はみんな帽子をかぶるのかというとそうではない。そのような人にも3種類ある。帽子をかぶるグループ、まったく帽子をかぶらないグループ、もう一つは細工をするグループである。ではどのような細工か? 一つはかつらである。もう一つは髪の毛をあるところからないところへ移動させるパターンである。つまり、後ろや横にある髪の毛をてっぺんや前へ持ってくるのである。このタイプは帽子をかぶると髪型が崩れるのでかぶらない。髪の毛はホルモンに関係するのか、女性の薄毛は少ない。そのためか帽子も男性に比べると少ない。以上のことを考えると、帽子をかぶるのには2種類の理由があるように思う。一つは薄毛隠し、もう一つは薄毛による寒さ対策である。

 帽子をかぶったり細工をしたり、いろいろと苦労があるようである。高齢者は今までの長い人生で、酸いも甘いも嚙み分け、もうすっかり人格が出来上がっているものと思っていた。そして、堂々と自分に自信を持ち人生を闊歩しているものと思っていたが、意外と小心なのである。頭の中よりも表面が気になるようである。やはり、人間はいくつになっても見た目がすべてということか?