香炉(その2)

 

 これはちょっと大きめの香炉である。渦巻き状の香や棒状のものも使用できる。口が広いので、灰が外部へ落ちる心配がない。高さがないので安定感がある。材質はメイプルのこぶである。きれいな模様が全面に出ている。ただ残念なのは、もっともきれいな模様が底にあることである。灰が入っていて見ることができないのである。灰を出し、手入れした時に、この美しい部分を見ることができるので、頻繁に手入れをすること間違いなしである。見えない部分がもっとも美しい、という粋を感じられる作品である。

 木目をきれいに出すために、植物オイルで仕上げたかったが、灰や煙に接することを考慮して、漆仕上げとすることにした。漆は塗装・乾燥と磨きを繰り返すことで美しさ増すのであるが、膨大な時間を要するのが欠点である。それと同時に木目の明暗も目立ちにくくしてしまう欠点がある。見た目も重要であるが実用性はさらに重要である。ということで、漆仕上げを採用した。

 実際に使ってみると、その安定感と使い勝手の良さにひそかに満足している。テーブルに設置して立ち上る煙を眺めるもよし、掌に載せてじっくりと眺めるのもいい。美しい木目模様の間から立ち上る煙は、また格別な気分を味合わせてくれる。

 ここで使用している灰は、長年使用している火鉢から拝借したものである。その火鉢には、長年炭を燃やし続け、良質できめ細かくしっとりとした灰が大量に堆積している。その柔らかな灰の一部を香炉に盛った。渦巻き状の香は、灰に直置きでも消えることはない。じっくりと燃えていく。終わるときれいな渦巻き状の灰が残る。これらが火鉢の灰と混じり合い、いつしか香炉独特の灰に変化するのだろう。器である香炉も重要であるが、それの価値を出させている灰も重要である。吹けば一瞬にしてどこかへ行ってしまうが、それ自体燃えることはなく、熱を直接ではなくゆっくり穏やかに伝える。燃えているものを消すことなくやさしく包み込む。何も悪さをしない素晴らしい素材である。年齢を重ねるとともに灰の重要さ、すばらしさを再認識している。心穏やかに、灰の域に達するべく努力中である。