60.酒

 一口に酒といってもその種類は非常に多い。ビール、日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキー、ブランデー、マッコリ、紹興酒、ウオッカ、テキーラ等、それぞれの国に特有の酒があるように思う。そして歴史も古く、人類とは切っても切れない関係が続いている。大きく分類すると、醸造酒と蒸留酒に分けることができる。醸造酒は酵母によるアルコール発酵でできる酒で、ビールや日本酒、ワインがある。蒸留酒は醸造酒を蒸留したものである。ウイスキー、焼酎、ブランデー、ウオッカ等である。蒸留しているので当然アルコール度数は高い。製造方法はいろいろあっても、結果はすべて酒である。その酒であるが、アルコールが含まれていれば何でもいいかというとそうでもない。人それぞれに好き嫌いがあり、好みのものを選択して飲んでいる。

 酒の席で、多くの人を見てきたが、日本酒とワインに関しては、こだわりの強い人が多いように思う。日本酒は種類が純米酒、本醸造、吟醸、大吟醸、山廃、ひやおろし等、非常に数がある。「甘口」「辛口」がまず問題となり、「ひや」「ぬる燗」「上燗」と好みがわかれる。同じ日本酒を飲むにしても、純米酒を燗で飲みたい人と、大吟醸をひやで飲みたい人では大きな隔たりがある。同じ料理を食べているにもかかわらず、選択する日本酒がまったく違うのである。肉料理に白ワイン、魚料理に赤ワインぐらいの違いである。では、ワインに関してはどうか。こちらに関しては、仲間内で講釈を述べながら選ぶことになる。いまだにワインの味や匂いの表現というものに関しては違和感がある。「まだちょっと若い」「クロスグリの香りの後ろに土の香りを感じる」「もう少し空気に触れさせると香りが開く」等、もっとはっきりと言えないものかといらついてしまう。このような表現をすることで自信のなさが補えるのかもしれない。イチゴの匂いがする、と言ってしまえば、誰にでもわかるだけに、そうでなければ笑われてしまう。ところが、クロスグリの匂いであれば10人中10人がわからない。聞いた方も、ああこれがクロスグリか、で終わりである。土のにおいなどというものが飲み物にあっていいわけがない(悔しく、かつ、残念ではあるが、そのにおいは実際に存在する)。

 これらに比べると、同じ醸造酒であってもビールはほとんど番外である。店に入ると、「とりあえず生中」で終わりである。そこから先は、日本酒、焼酎へと移行する人、そうでない人はそのまま「生中」を延々最後まで続ける。もっとビールに関してもこだわりがあってもいいように思うが、なかなかそうはならない。その一つには、味の変化が少ないということも関係があるのかもしれない。個性の強い地ビールが増えたとはいえ、シェアはわずかである。もっとも大きな理由は、食事に合わせるという飲み方ではなく、食べたものの残影を流し去るといった効果があるためかもしれない。口中をさっぱりさせるとともに、喉越しを味わう。したがって、どんな料理にも合う代わりにこだわりが生まれてこない。アルコール度数と同じようにこだわりもやや薄めである。