73.自己申告

 よくニュースに出てくる事故で、ブレーキとアクセルの踏み間違いというのがある。普通に考えれば、ありえない間違いである。ブレーキとアクセルの位置が日によって入れ替わるのであれば理解できるが、まったく変わることがなく固定されているのである。このような事故に至るまでに、おそらくそれらしい前兆があったはずである。それにもかかわらず、車の運転を続けていることに問題がある。これについて言及することを今回は避けておく。難しい問題が絡むからである。何不自由のない都会に住んでいながら、公共交通機関を使用せず、自家用車で事故を起こす場合などは問題外である。しっかりと自覚し、不安を感じたときは自己申告をして、運転免許証を返上するべきである。自分だけが不利益を被るのではなく、他人の命にかかわることであるからである。自らの衰えに正直になる勇気が必要である。いつまでも若くはないのである。「最近の若い者は・・・」「まだまだ、若い者には負けん!」などといっている場合ではない。

 実は、ここまでは長~い前置きである。ここからが本番である。最近、20年近く続けてきた水泳をやめた。「病気をした」「疲れた」「飽きた」などというような中途半端な理由ではない。決定的な事実を目撃したからである。スポーツクラブは多くの高齢者で連日にぎわっている。激しい動きを伴う上級者向けのエアロビクスや、本格的な筋トレには高齢者はほとんどいない。ウオーキングマシンや水泳、水中ウオーキングなどは高齢者が多い。特に水中ウオーキングには、足や腰のリハビリに利用している人が多い。がむしゃらに激しい運動をするだけがスポーツクラブではない。リハビリや体力維持のために利用している人が多い。

水泳を終え、その後の水中ウオーキングをしているときである。よく会う男性の高齢者がいつものように水中ウオーキングをしておられた。この方はほとんど毎日のように来て、水中ウオーキングをしておられる。ある日、プールから上がり、風呂に入ろうと脱衣場に入ったときである。いつもプールで水中ウオーキングをしておられる方を見かけた。パンツのお尻のあたりが何やらもこもこしている。15センチくらいの幅で当てものがしてある。あれっ、と思いよくよく見てみると、それは紛れもなく「尿漏れパンツ」である。自覚症状があるならプールは控えるべきであろう。女性は出産により尿漏れが起こりやすいという。また、高齢になると男女とも尿漏れが増えるのは仕方がない。テレビや新聞でも尿漏れパンツの広告をよく見かける。それだけ利用者がいるということであろう。これは決して悪いことではなく、責められるべきことではない。年齢とともに避けられない身体的な衰えなのである。ここで問題としたいのは、正直な自己申告と正しい対応である。もし、尿漏れがあるのであれば、プールは控えるのがマナーであろう。それを自覚しながらプールに入ることに疑問を感じる。ロッカールームで見かける別の高齢者は、コロコロを引っ張りながらやってこられる。そして、ビニール袋には必ず尿漏れパンツが3枚入っている。1枚は予備としても、1日の行動時間内に2枚は交換を必要とするのであろう。この人はプールには入らない。もっぱらランニングマシンでの歩行と軽い筋トレである。運動中にトイレへ行き、尿漏れパンツを交換しているのを見かけたことがある。

 プールはほとんどが高齢者である。しかも、水中エアロなどは50人程度が45~60分ぐらいやっている。いったいこの中にどれだけの尿漏れ高齢者がいるのだろうか? そして、どれぐらいの尿が漏れているのだろうか? このようなことを考えると、クロールで30分も泳いでいる場合ではない。放射能ならガイガーカウンターで被ばく量が測定できるが、こちらは測定ができない。舐めてわかるような塩分濃度ではないし・・・。

 プールに入るのに検査はない。すべて自由である。水中でブレーキとアクセルを踏み間違えても誰も気づかない。いや、誰も傷付かない。したがって、野放し状態である。スポーツクラブで足腰を鍛え、体力の維持をするのもいいが、もっと鍛えるべき筋肉があるような気がしてきた。健全な高齢者になるための準備を今からすることとする。

 

追記:後日、決定的な注意書きを目にした。プールの入り口に「尿漏れパッドを外してお入りください」という張り紙である。つまり、スポーツクラブ公認なのである。現状のスポーツクラブは、高齢者を排除すると経営が成り立たない。モラルも衛生面も数の力でどうにでもなってしまうのである。