145.松の戦略
相変わらず山歩きが続いている。コロナでスポーツジムをやめてから運動の代用としてやってきた。コロナが落ち着いた今となっても、なんとなく再入会をためらっている。
新緑のころ、きょろきょろとしながら山歩きをしていると、緑一色の中で茶色い色がよく目立つのに気が付いた。松の木が多く枯れている。マツクイムシにやられたのだろうか? それとも何かほかの病気だろうか? 素人では原因がよくわからない。わかるのはその数が尋常ではないということである。
多くの松が枯れているにもかかわらず、同じ松でも新しい命が芽生えている。こちらはマツクイムシや病気は関係ないのだろう。すくすくと育っている松を見ていると、先ほど見かけた松と明らかに違う点が気になった。枝の先端から4、5本の枝が出ている。どれも同じ太さと大きさである。これを木の節目とすると、松の木はこの節目で常に4、5本の枝が出ていることになる。しかし、成長した木を見ると、幹からは1本しか枝が出ていない。他の枝はどこへ行ったのか? 不思議である。その枝が出ている周りを見渡しても見つからない。ますます不思議である。消えたのである。大きく成長した松の先端を見ると、やはりそこには4、5本の新梢が出ている。その下当たりの節目の部分でも同じく幹の周りに4本程度の枝が出ている。さらにその下の節目はどうか? どうにか4本程度出ているが、それぞれの枝の太さが違う。非常に細い枝が存在する。さらにその下はどうか? 明らかに本数が少ない上に、さらに今にもなくなりそうな細い枝がある。
こうしてみてくると、これは紛れもなく松の戦略であると思われる。生き残りをかけて、枝を伸ばす方向に保険をかけているのである。1本の枝しか伸ばせなければ、そこが北側で光合成が難しければ死活問題になる。しかし、松は4方向に枝を伸ばしている。光合成の効率が悪い枝を順次枯れさせ消滅させることで、効率のいい光合成が可能となると同時に無駄な枝を保有することがなくなる。高木が生い茂る森の中でも同じようなことが起きている。光の入らない低い部分に枝がない。ここにいくら枝を張って葉をつけても光合成ができない。それよりも他の木々と争っている高い位置に葉を茂らせた方がいい。
他の木々が高木になって行う戦略を松は幼少期から行っているのである。松の生命力は他の木々に勝っているのである。そんな松でもマツクイムシや病気には勝てないのである。今はじっと耐えて、新しい戦略を考えているかもしれない。マツクイムシを養分に取り込み、これを糧にさらに成長を遂げるかもしれない。地上数十メートルまで育つ松を見てみたい。数は多くいらない。1本でいい。「森の一(石)松」ここにあり。