31.新車

 車に乗る機会がめっきりと減り、ほとんど買い物程度しか乗らない期間が長かった。排気量が3,000ccもあるため、燃費は恐ろしく悪い。街中走行では4~5km/ℓ、高速道路で7km/ℓ程度である。年間の移動距離はたいしたことがないので、それほど苦にすることもなく乗り続けていた。しかし、その車で恥ずかしい思いをすることが増えた。買い物に出かけた駐車場で、車のドアミラーは出っ放し、キーを差し込まなければドアが開かない。今や軽自動車でも電子ロックである。離れたところから、ボタン一つでウインカーがフリッカーすると同時に電子音が鳴り開錠できる。こちらは相変わらず、キーを差し込み、くるりと回して開錠である。キーを回すときに、思わず口から電子音を発しそうになる。

 愛着のある車であるが、先日高速道路を走ったときに異常を感じた。加速時に車がしゃくるようになったのである。加速が終われば何の問題もなく走行できるのであるが、安定走行という意味ではやはり心もとない。走行距離はたいしたことはないが、経過年数が半端ではない。あまりにも長すぎて定かな年数がわからない。車検証で確認すると、初年度登録が平成3年になっていた。何と、27年間乗っていることになる。その間、何のトラブルも発生しないし、塗装もしっかりとして錆び一つ浮いていない。非常に頑強な車である。子供とともにあり、わが家の思い出のほとんどを共にした車とも、とうとう「サヨウナラ」である。車も27年間付き合うと情が移るものである。最後はわが家の車庫で記念撮影である。

 ハイブリッドの新車がわが家の車庫にやって来たが、なかなかなじめない。今まではマニュアル車で、クラッチを踏みシフトレバーをガチャガチャしていたが、今はアクセルを踏むだけである。クラッチを踏むことなくシフトレバーを動かすことが怖くてしょうがない。この感覚に慣れるのにしばらく時間を要した。運転席正面のパネルには、デジタルの数字や絵がいろいろと表示される。それだけではなく、しょっちゅう警報が鳴ったりしゃべったりする。あまりにもいきなりなので何のことかよくわからない。これらをすべてわかろうとすると、とんでもなく大変なことに気が付いた。車の取扱説明書が400頁、ナビゲーションの取り扱い説明書に至っては600頁もある。エンジンルームを覗いてみると、高電圧ケーブルが危険そうな色で横たわっている。恐ろしくて手が出せない。ざっと見ただけですぐにボンネットを閉じた。

 キーに付いているボタンを押せば開錠できると思っていたのは、最も簡単な操作の一つであることがわかった。その他のことはじっくりと取説を読まなければ何もできない。読めば読むほど、ほとんどのことが電気・電子に関わる操作・制御である。かつての機械で走っていた車が、今は電気・電子で走る時代である。黒電話からいきなりスマホになったような感じである。こんな車が世の中に多く走っていること自体が不思議である。どう見てもこれだけの取説を理解して乗っているとは思えない。必要なこと以外は知らなくてもいい、では済まされない部分があるように思う。人の命に関わる事だけに、もっと人に優しい車が必要である。今はやりの「ブレーキとアクセルの踏み間違い」に関してはマニュアル車では考えられないことである。「簡単=便利」だけでは決してすまされない。「簡単=怖さ」ということも考えておかなければならない。自動運転車にも同様の問題を感じるが果たしてどうであろうか?

 とはいうものの、ナビゲーションのすばらしさは感嘆ものである。これに関しては脱帽である。