22.道路の最大勾配(1)

 「坂バカ」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 自転車を趣味としている人なら聞いたことがあると思うが、そうでなければ何のことか全く想像がつかないだろう。自転車で坂道を上るのは大変きついということをだれもが知っている。日常的に出会う坂は、きついといってもたかが知れている。坂バカといわれる人たちはその程度のものを坂とは認識をしていない。目が錯覚を起こして、道路が上下にちょっと歪んでいる程度にしか思っていない。この程度の坂では満足できない。急坂、激坂を愛してやまない人たちなのである。近所にあるわずか数十メートルの距離しかない激坂から、山頂まで続く長くて険しい坂道など、とにかく急勾配があればすべて上ってみたくなるのである。勾配がきつければきついほど達成感も大きい。とにかく高いところへ上るのが好きなのである。「年間累積獲得標高」というものまである。1年間に合計でどれだけの高さのところまで登ったかということを示す数字である。上る山の高さや回数に影響される。これが一種の自慢でもあるのである。1年間に全国のいたるところで相当数のヒルクライムが実施されている。大きい大会では一万人規模になる。もちろん全国から坂バカが集まってくる。優勝しても高額の賞金や商品がもらえるわけではない。得るのは名誉だけである。それも「坂バカ」という何とも人をバカにしたような変な名誉ではあるが・・・。

 坂バカが走りたくなるような大会には、最大勾配が15%を超えるものが多い。15%といわれてもピンとこないだろう。日常生活を営んでいる分にはほとんど目にすることがない勾配の坂である。歩いて上る場合でも相当にきつい程度の坂ということもできる。具体的に15%というのは、100m進むと15m上がる勾配である。これでは余計にわかりづらい。図に書けるように縮小すると、10cm進むと1.5cm上がるような斜面である。図を見る限り全くどうということのない坂のように見える。簡単に上れそうな気がしてくる。これが実際の道路になると、とんでもなくすごい坂に見えるのである。普通の人が見れば、絶対に上れる気がしない。それ以上に上ろうという気が起らない。さらにいえば、なぜこのような坂を上る気になるのか? そんな人の気が知れない、ということになる。自分を否定するのではなく、他人を否定しバカにしたくなるほどすごい坂なのである。だから、「坂バカ」なのである。これ以外の表現で、このような坂を愛する人を表現することはできない。言う方もまったく悪気がないし、言われた方も悪い気がしないのである。むしろ喜びさえ感じるような人なのである。