ハタケニラの恐怖

◆ハタケニラという名を聞いたことがあるだろうか? ほとんどの人は聞いたことがないと思う。菜園のあちこちに顔を出しているので、気にはなっていたがそれほど真剣に対応してこなかった。というのも、あまりにも雑草が多く、いちいち区別する必要を感じなかったからである。栽培しているもの以外はすべて雑草、という感覚であった。邪魔になってくるとすべて引き抜くというやり方である。しかし、徐々にその存在が大きくなってきた。そして遂に、これは非常に恐ろしい雑草である、ということに気が付いた。

 子供のころには見かけなかったような気がする。通常、家庭菜園に雑草が生えてくると、茎をしっかりと持ち「えい、やっ!」と、上に引き抜けばそれでおしまいである。しかし、このハタケニラというのはそう簡単にはいかない。地表には葉しか出ていない。茎が出ていないのである。したがって、茎ではなく葉をもって引き抜くことになる。「えい、やっ!」と引き抜くと、簡単に「ぷちっ」と葉が切れてしまう。肝心な根っこは絶対に抜けてこない。そのまましばらくすると、また葉が伸びてくる。この繰り返しが延々と続く。それだけではなく、どんどん広がって数を増してくるのである。ここも、そこも、あそこも、そしてそれらの周りもすべて・・・。なぜこのようなことが起こるのか? それについては今後じっくりと検証していく。

 引き抜こうとすると葉を切ることで防御し、かつ恐ろしいほどの繁殖力で広がっていく。この最強の雑草を1年間にわたり観察した記録である。水や肥料をやり、これだけ大事に育てた雑草は初めてである。

 <ハタケニラの豆知識>元は北アメリカ原産の帰化植物である。明治時代中期辺りに園芸用として持ち込まれたものが野生化したとされる。

 

<ハタケニラ>

 

<花>

 

◆いくらゆっくりと葉を引き抜いても切れてしまう。球根が抜けてこない。決して葉が弱いわけではない。これは不思議なことだなと思い、掘ってみると、「え、え、えーーー」と、思わず声を出してしまうような、光景を目にする。まず、この雑草を掘り出すためには、深さ10cm程度掘らなければならない。それほど深い位置に球根があるのである。そして、そこにたどり着くと、もっと恐ろしい光景を目にすることとなる。それは、球根の周りにびっしりと、30~40個のミニ球根(7mm程度)がくっついており、持ち上げるだけでミニ球根がばらばらと落ちるのである。つまり、雑草退治をしているつもりが、雑草の球根をまき散らしているのである。未熟な球根は白いが、熟してくると茶色になるので、落ちたものは保護色でなかなか回収できない。繁殖方法は球根だけではない。花が咲いたあとには多くの実を付ける。地下決戦だけでなく地上戦も戦わなければならない。地下決戦に比べれば、地上戦はかなりの楽勝である。花が咲けばすべて切り取ればいいのである。これは簡単であるが、結構根気がいる。それくらい多くの花を次から次へと咲かせる。地下決戦は困難を極める。耕運機で菜園を耕すと、そのミニ球根があたり一面に広がってしまう。したがって、耕運機を使用した後はいたるところからハタケニラが生えてくる。見るのも嫌になるくらい生えてくる。

<ハタケニラ全体>

 

<球根部分の拡大>

 

◆この雑草退治には、これが生えている部分をざっくりと掘り、土をこぼさないようにして袋へ入れる。これを天日干しし、完全に乾いたところを、ガスバーナーでしっかりと焼く。この方法が最も手っ取り早いと思われる。こうすれば再度土は菜園に戻せる。球根類は保水力が強く、コンクリートの上に放置したままでも、1年程度なら十分に発芽が可能である。タマネギやニンニクを軒下に吊るしておくのがいい例である。これらはあまり長く吊るしておくと発芽が始まってしまう。それくらい球根類は保存が利く。

 この雑草を退治していて不思議に思うことは、なぜ10cmもの深さに球根があるのかということである。鳥の糞により種が落ちたとしても、それほど深い位置に種が落ちることはない。たまたま、深い位置にあるというのではなく、すべての球根が深い位置にある。こうなると球根自体が、自ら深い位置へ移動したとしか考えられない。通常、植物の種は植えた位置で発芽し、根は下へ、葉は上へと伸びる。種や球根が移動するということは経験がない。これはぜひとも確認する必要がある。

 菜園内に生えているハタケニラを数本掘り出し、ミニ球根を数百個集めた。それらを深さ20cmの植木鉢3個に植えた(2016年5月30日)。植えた深さは地表から1cmのところである。このまま球根がこの深さで発芽し、成長すれば何の問題もない。1か月たっても発芽してこない。ひょっとすると、あのミニ球根であると思っていたものが、実はそうではないのかもしれない。それとも条件が合わずすべて腐ってしまったのだろうか。いろいろと不安が広がってくる。しかし、菜園内の雑草を見ていると、1年中生えているものは意外と少ない。それぞれに好みの季節というものがある。多くの草花が春や秋に舞台を設定している。この時期に発芽しないということは、春は見送りということになる。秋に期待することにし、それまでの間大事に育てることとする。

<秋のお楽しみ>

 

◆10月になって、ようやく発芽が始まった。その後、12月になるとハタケニラらしい葉の状態になってきた。順調に育っているようである。この時点で球根の状態はどうなっているのだろうか。ひょっとすると、もうすでにかなり深い位置にあるかもしれない。恐る恐る、そしてドキドキしながら、数本のハタケニラを掘ってみた。球根が地中に潜ったかどうかがわかるように、地表部で葉を切り、そして掘り出してみた。すると、球根の部分から切断部分までは2cmあり、植えた時よりも1cm深く入っていた。球根から太い根が2本真下に伸びている。1本は真っすぐであるが、もう1本は中央部が縮れている。想像するに、1本の根の先端を地中に固定し、その根が縮んで球根を引き込んでいるのではないかと思われる。その間に他方の根は球根と一緒にさらに深い位置へと移動していく。今度はその深い位置へと移動した根が球根をさらに深い位置へと引き込むのではないだろうか。もっと深い位置へ移動するかどうかを確認するために、さらに数か月放置することとした。

 2016年5月25日、ハタケニラのミニ球根を植えてから1年が経過した。3個の植木鉢で最も成長のいいものを選んで、前回同様に生えているハタケニラをすべて地表部で葉を切断した。したがって、ここから下の部分はすべて地中にあったことになる。植木鉢をひっくり返してみると、すでにミニ球根を多数付けたハタケニラの球根が、地中深くへと移動していた。最大で地表から7cmのところに球根があった。最初に植えた位置が地表から1cmのところであるから、1年間で6cm潜ったことになる。ただ、植木鉢の深さが25cmしかなく、底にはハタケニラの根がとぐろを巻いていたので、もっと深い植木鉢であれば球根はさらに深く潜ったかもしれない。これで、球根が確実に潜るということが分かった。

<発芽>

 

<成長中>

 

<上部の根が縮んでいる>

 

<満員御礼>

 

<最大で6cm地中深くへ>

 

◆ハタケニラは上記のような方式でどんどん増えていく。菜園を耕すたびに、多数付いているミニ球根が菜園中にばらまかれる。そして、あちこちで芽が出る。そしてまた、それらがミニ球根で増えていく。この繰り返しがものすごい速さで進む。菜園中がハタケニラで埋め尽くされるのも時間の問題かもしれない。この対応策は3つ。家庭菜園を始めて8年になるが、今まで全く使ったことのない農薬を使う方法。農薬にもいろいろなものがあり、散布後、数日で効果をなくすものや長く残留するものもある。いくら数日で効力がなくなるとはいっても、その間は毒物である。これを撒いた後の土から得られるものを口にするというのはやはり嫌なものである。二つ目は、1年間菜園を閉鎖し、全面を黒マルチ(黒いビニールシート)で覆い、太陽熱による消毒をする方法。地表であれば、50~60℃はすぐに達するが、地中10~15cmの深さまでとなると、ちょっと難しいかもしれない。それ以上に、この程度の温度で死滅するかどうかも確かめなければならない。また、黒マルチで覆えば、光合成ができなくなる。その効果も期待ができる。しかし、菜園を1年間閉鎖しなければならない。最後は、今までと同様、共存する方法である。邪魔になれば抜き取り(切り取り)、そうでなければそのまま放っておく。菜園中がハタケニラになればそれはそれで壮観であろう。その時はその時で考えることとする。以上が今後取りうる方法である。食用にならないのが残念である。

 

◆あっけなく共存案は消え去った。とても共存できる状態ではない。契約不履行と言われようと、これはもう一方的に破棄である。共存はしない。菜園の閉鎖もしない。農薬も使用しない。これらを前提にして菜園を継続する。ではどうするか? 前回紹介した黒マルチの使用である。畝全体を黒マルチで覆い、野菜を植える部分だけに穴をあける。そこから肥料と水を供給して育てる。そうすることで、ハタケニラは地上に葉を伸ばしたとしても、黒マルチに光を遮られ光合成ができない。太陽熱による球根の根絶は無理かもしれないが、発芽して地上に出た葉が光合成をできなければ、栄養分をつくれず枯れてしまうだろう。また、黒マルチ内は相当な温度に達するので、太陽熱で葉が枯れることは十分期待できる。1、2か月という短い期間ではなく、1年という長いレンジで実施してみたい。とりあえず、今回は1畝だけで様子を見てみる。効果があればすべての畝について同じようにしてみることとする。ハタケニラとの長~い戦いの始まりである。