ムギのギム

◆今回はムギの菜園日記である。わが家庭菜園では、必要不可欠な補助資材であるため毎年栽培している。理由は麦わらを確保するためである。稲わらが手にはいれば必要ないのであるが、これがままならないので麦わらを自作している。水田を所有していないので、稲を作ることができない。そこで、同等の利用価値があるコムギを栽培している。できることなら、麦わらだけでなく、コムギも収穫したいのであるが、狭い家庭菜園ではそれができない。コムギを収穫できるまで栽培すると6月になってしまう。5月には夏野菜である、トマト、キュウリ、ナス、ピーマンやピーナツの栽培を開始しなければならない。そのためには、4月中旬くらいから夏野菜を植える場所の準備を始める。したがって、それまでにコムギを刈り取ってしまわなければならないのである。このころはようやくコムギの穂が出てくるころである。さあこれから、というときに刈り取ってしまうのである。ちょっと残酷であるが、心を鬼にして刈り取る。もちろんすべて刈り取るわけではない。何とかやりくりをして、6月まで栽培が可能な場所を確保し、翌年の種を確保するようにしている。刈り取ったコムギは天日干しをして、完全に乾燥させ保存する。また、麦わらも完全に乾燥させて保存しておく。必要に応じて、植物の根元に敷いてやる。雨による泥跳ねや、乾燥防止になる。使用後は腐葉土と同様に、いい土(団粒構造)の材料になる。麦わらを確保するためにコムギを栽培するのであれば、二条大麦でもいいのではないか? ということも考えた。しかし、これはビールの原料になる。つい出来心でビールを製造しかねない。この出来心を抑えるためには、やはりコムギでなければならない。

 「家庭菜園の重要な補助資材」これが一つ目のムギのギムである。

 

 

           <コムギの種>

 

        <麦わら>

 

◆菜園を耕し、種を蒔くための溝を掘り蒔いていくのであるが、手を抜いて、溝を掘らずに土の上に直に種を蒔いた。翌日になると、コムギから白いものが吹き出して、いつまでたっても発芽しなかった。中身がつぶされているようであった。やはり土に埋めないと発芽しないのかとも思ったが、十分な水やりをすれば問題ないはずだと再度コムギを蒔いた。しかし、またしても同じ現象で、白いものが「むにゅっ」と出た状態で発芽しない。3度目でやっと理由がわかった。スズメの仕業であった。菜園全体をネットで覆ってあるので、鳥は一切入り込まないと思っていたがそうではなかった。ブロックとフェンスの隙間(5cm)から出入りしていたのである。コムギは水分を含んで柔らかくなっているので、スズメにかみつぶされて実の一部が出てきていたのである。普通ならコムギをそのまま食べてしまうはずなのに、なぜかみつぶしたのか不明である。遊び心? それとも、手を抜かずちゃんと種は土に埋めろ! という警告? いずれにしろ、スズメの一家にとっては、数日間食べ放題状態であったものと思われる。警告に従い、あらためて溝を掘り、コムギを蒔きしっかりと土をかぶせた。

 11月中旬に蒔いた種は5日で発芽を始めた。日当たりのいい場所は発芽が早いが、悪いところは数日遅れる。誰が号令をかけるわけでもなく、場所ごとに一斉に発芽が始まる。単独で土から出てくるものや、ご近所さんと力を合わせて土を持ち上げて出てくるものもある。要領のいいのは土が持ち上がった後にそっと出てくる。いずれにせよ、小さな植物の力強さを感じる瞬間である。

 きれいに発芽した。なかなか見事な光景である。発芽率は100%近いと思われる。今年蒔いた種は2年前に収穫したものである。保存状態はそれほど良くなかったが、小麦にはもともと強い生命力があるのだろう。11月にもなると夜はかなり冷え込む。しかし、コムギはそのような寒さをものともせず成長を始める。冬の間中成長をする。

「100%近い発芽率」これが二つ目のムギのギムである。

 

 

       <正しい種蒔き>

      <発芽開始>

 

 

<発芽のためならエンヤコラ!>

      <見事に発芽>

 

◆苗が成長して、10cm位になるとムギ踏みをする。これは普通に考えると、相当残酷な行為である。この寒い時期に、一生懸命芽を出し成長しようとしている新芽を踏みつけるのである。家庭菜園で育てているひ弱な植物では全滅してしまう。これを初めて行ったときは、恐る恐る一部分だけを踏んで数日間様子を見た。問題なく苗が立ち上がってきたのを確認して、残りの苗をすべて踏んだ。では、なぜムギ踏みをするのか? 寒さで土が凍結し霜柱が立ち、ムギを持ち上げることで根が切れてしまわないようにするため、といわれている。わが家庭菜園では2月ごろに1、2回霜柱ができる程度であるから、この時期には本来必要ないのである。それよりも、踏みつけることで、ムギの分げつ(1株から多くの茎が出ること)を促すためである。こうすることで、1個の種から発芽した苗が、数本の茎を出し、それぞれの茎にコムギの穂ができるようにするためである。

 まっすぐに伸びた苗がすべてぺしゃんこに倒れてしまう。順番に踏んでいくのですべて同じ方向に倒れる。ゴルフで芝目を読むよりははるかに簡単である。並行した畝を一筆書きのように歩くので、コムギの倒れ方は順目と逆目になる。この色のコントラストがなかなかきれいである。これがわずか2日間で見事に元に戻る。そして、何事もなかったようにまっすぐ上に伸びていく。

「踏まれても立ち上がる」これが三つ目のムギのギムである。


 

◆家庭菜園で、真冬のこの時期に緑色のものは珍しい。しかも、すくすくと育っているので、ちょっと不思議な感じがする。菜園前を通る人に「これは何ですか?」とよく尋ねられる。コムギであることを告げると、「やっぱり」と昔を懐かしむ高齢者、「へー」と不思議そうに感動するのは若い人である。高齢者は昔見た光景がよみがえるようであるが、まさかこのような場所で、わずかばかりのコムギを栽培していることが信じられないのであろう。確認したのち、ああやっぱりそうか、といった記憶力の正しさに安心したような顔になる。若い人は全く信じられないといった感じである。こんな家庭菜園のようなところでコムギができるのか、といぶかっているようである。コムギと聞いた後は、ほとんどの人が、これをどうするのかと聞いてくる。種用を残して、ほとんど穂が出てすぐに刈り取るというと、さらに不思議そうな顔をする。麦わらを確保するために育てていると説明しても、なかなか理解ができないようである。これほど万能で有効なものはないのであるが、家庭菜園の経験がない人にとっては不思議なものなのだろう。

 「真冬でも目に鮮やかな緑を提供する」これが四つ目のムギのギムである。


 

◆コムギは肥料を施さずに育てている。理由は、家庭菜園内にある過剰な肥料の消費を促すためである。面白いことに、菜園内の肥料の分布がよくわかる。コムギの育ち方にばらつきがくっきりと表れる。発芽後、1か月半で育ちの悪いところは35cm、いいところは45cmである(暖冬の影響もあり発育が非常にいい)。10cmもの差が出てきた。残留肥料の多いところは、色が青々としている。それに比べると肥料の少ないところは、やや黄緑色で茎が細く背丈も低い。それでも一応は穂が出る。しかし、この穂にはほとんどまともな実がつかない。小さな穂にほんの少し実ができるだけである。

 このようにして、コムギを蒔いたところの残留肥料をリセットしてしまう。そして、次に育てる野菜に応じて再度肥料を施すのである。このようにしないと、菜園内の残留肥料の状態がわからない。毎年、このようにして菜園内の残留肥料分布をリセットしている。どのような植物も過剰な栄養分はよくないのである。やや不足気味のほうが根をよく伸ばし、養分を一生懸命吸収し元気に育つのである。

 敷き藁用のコムギは、出穂が始まった時点で収穫してしまう。そうしないと、コムギの穂に実が入り、敷き藁にしたときに発芽してしまう。コムギは完熟しなくても、ある程度実が入れば発芽する。非常に生命力が強い。毎年、イチゴの敷き藁からコムギが芽を出す。要するに収穫が遅れているのである。

 「家庭菜園内の残留肥料の吸収」これが五つ目のムギのギムである。

 

              <出穂>

 

           <敷き藁から発芽>

 

              <育成差>

 

◆夏野菜の準備をするために、コムギを刈り取る。刈り取ったものは、適当な大きさの束にまとめてひもで縛る。これを竿にかけて天日干しにする。完全に乾燥させ、不要な葉を取り除いて茎部(ストロー)のみにしたものを保存する。これは乾燥に弱い植物(キュウリ、ナス、ブルーベリー等)や、直射日光を遮り青みを帯びないようにするミョウガの敷きわらにする。翌年のイチゴの敷きわらに使用するものは、適当な長さに切って保存しておく。一部分のコムギは翌年の種用とするために、実が完熟するまで育てる。葉、茎、穂のすべてが黄色く色付き、実が固く締まってくると収穫である。今年はちょっと多めにコムギを収穫した。コムギの穂を両手でこすり合わせての脱穀である。コムギには多くのひげがあり、これがチクチクとして結構痛い。殻を扇風機で吹き飛ばして、種だけを確保する。来年蒔く種用を取り置いた後、残ったコムギでクッキーを作ってみた。レシピが悪かったのか、腕が悪かったのかわからないが、納得のいくものができなかった。コムギを粉にするためにミルを購入したので、いずれ再挑戦である。それにしても、コムギを挽くのは重労働である。手動ミルではクッキー程度の量が限界である。粗挽きにするのは楽なのであるが、パウダー状に細かくするには、ミルの摩擦が大きくものすごい力が必要となる。その割にはわずかの量しか粉にならない。右、左、右とハンドルを持ち替えて回してもすぐに疲れてしまう。負担を軽減するために、電気ドリルを接続して挽いてみた。最初は調子よく回っていたが、急にドリルが熱くなり、焦げ臭いにおいがしたと思ったら止まってしまった。モーターが焼けてしまった。もうピクリとも動かない。それほど大変な作業である。パンとうどんも作ってみたいのであるが、手動のミルでは無理である。それに、我が家で収穫したコムギが強力粉、薄力粉のどれに該当するのかがわからない。現在、ミルはコーヒー豆専用になっていい香りを醸している。この程度なら人力で十分可能である。

 コムギ粉作りはあきらめて、暑い夏に向けて麦茶づくりをすることにした。フライパンにコムギを入れてしっかりと焦げ目がつくまで炒る。それをミルで粗挽きにして出来上がりである。これをティーバッグに入れて煮出すとうまい麦茶の出来上がり。今年の夏は少々暑くても大丈夫。ミネラルたっぷりの麦茶で乗り切れそうである。二条大麦(ビールの原料)ならもっと暑い夏でも乗り切れそうであるが・・・。

「ちょっとだけ穀物としての恩恵」これが六つ目のムギのギムである。

 

          <完熟>

 

              <脱穀>

 

             <天日干し>

 

             <手動ミル>

 

以上で終了です。

次回はイチゴを予定しています。