11.安全走行

 自転車に乗っていて怖い瞬間というのは、路上駐車の車を避けるために車道の中央へ移動するときである。そのたびに後ろを振り返って、車が来ていないのを確認する必要がある。一般道路を走っていると頻繁にこれを繰り返す。それだけ路上駐車が多いということである。一瞬とはいえ、後ろを振り返るのであるから、その間は前を見ていないことになる。少しでも危険を避けるために、格好は悪いが前輪のフロントフォーク部(前輪を支えているフレーム)に直径5cm程度のバックミラーを取り付けた。あまり目立たないのでちょっとほっとしている。これはすこぶる便利である。目線を少し下に落とすだけで後ろを確認できる。たったこれだけのことであるが、後ろを振り返るときの前方不注意やふらつきをなくすことができる。

 車やバイクに乗る人は必ず自賠責保険に加入しなければならない。それだけでは心配なので、さらに任意保険にも加入する。たとえ不可抗力であったとしても、加害者になる可能性を案じているのである。自転車は乗り物全体から見ると、車やバイクなどに比べ弱者になる。しかし、自転車が最弱者であるかというと、そうではない。歩行者が最弱者である。自転車が人身事故を起こすということも十分に考えられる。車やバイクで人身事故を起こすのと同等である。しかし、自転車には自賠責保険がない。こんな不都合なことはない。自転車も十分に加害者になる可能性があるにもかかわらず、何の保険にも入らず走行が可能なのである。加害者になることも十分に考慮しなければならない。自転車とはいえど、ロードレーサーなどは原付バイク並みのスピードが出る。時速40kmくらいは楽に出る。原付バイクの制限速度は30kmである。それを考えると恐ろしいことである。原付バイクの場合は、道路交通法で最高速度が規制されているが、自転車は規制がない。ママチャリでも時速20kmはすぐに出せてしまう。ましてや電動アシスト付自転車になるともっと簡単にスピードが出せる。ただ、重量が軽いので、バイクほど重大事故にはならない場合が多い。しかし、歩行者に激突して、倒れた場合の打ちどころによっては大事故の可能性がある。加害者になれば当然のことながら、相手への補償が発生する。保険に入っていない場合は、非常に恐ろしい乗り物になる。加害者にとっては、人生をかけた乗り物になってしまう。安全に関して絶対というものは存在しない。存在しない以上それに対する保険をかけるということはぜひものとなる。自転車による人身事故は、車に比べると圧倒的に少ない。したがって、保険料も極端に安い。決して事故を起こしたくて乗るわけではないが、いつ事故が発生するかわからない。わずかな額で安心が買えるのであれば入るべきである。兵庫県や大阪府は新しく自転車を購入する場合、条例で保険の加入を義務付けている。しかし、入らなかったからといって罰則規定はない。自転車という乗り物を再認識し、保険に加入するべきである。特に、電動アシスト付自転車はもはや自転車の域を超えている。 

 自転車に乗っている多くの人がヒヤリとした経験を持っていると思う。いつまでもヒヤリだけで済むとは限らない。ハインリッヒの法則によると、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという。このヒヤリが300の内の1つであると思えば、重大な事故になる前に、常に最悪の場合を想定して走り、最悪の場合を想定して保険に入るべきである。