ドンゴロスバッグ(その1)

 ドンゴロスという名称を聞いたことがあるだろうか? 何とも奇妙で愛嬌のある名称である。何気なく使っていたが、気になったので調べてみた。語源は「dungaree(ダンガリー)」らしい。これが変化してドンゴロスになったという。ダンガリーをドンゴロスに変えるセンスはたいしたものである。ダンガリーなら、数回聞いてやっと覚えてもすぐに忘れてしまいそうである。ところが、ドンゴロスなら1回聞けばまず忘れることはない。そんな素晴らしい名称でも、布の品質としてはおそらく最下位であろう。太さがまちまちな麻糸で編んだ布である。所々に麻の切れ端が入っている。最も有名な使われ方はコーヒー豆を輸入するときの袋である。この袋に生の豆をいっぱい詰めて船で運ぶのである。温度・湿度の管理はまったくできない。品質を重視したものの搬送には向かない袋である(高級なコーヒー豆は、温度管理がしっかりとできるコンテナで運ぶらしい)。

 神戸のコーヒー店に、このドンゴロスに入った豆が置いてあった。2坪程度の狭い店の片隅に焙煎機が置かれている。熱気と香りで圧倒されるような小さな店である。すべてが小奇麗な現代において、ドンゴロスは何とも不釣り合いな代物である。化学繊維を使えば、もっと見た目も機能もいいものが作れると思われるが、コーヒー豆は今もドンゴロスなのである。この時代錯誤な袋に何か惹かれるものがあった。すぐに店主に頼み込んで、ドンゴロスを2枚譲ってもらった。特にどうこうしようというわけではなかったが、何か愛着を感じたのである。このドンゴロスは、コーヒー豆を30kgも詰め込んで、はるばるインドネシアからやってきたのである。持ち帰り、じっくりと眺めていると、バッグを作りたくなった。とは言っても、目が粗く、容れ物としてはあまり好ましいものではない。それよりも、ほこりがすごい。ちょっと動かせば撚りの弱い糸から繊維の一部が剥がれ落ちる。もちろん裏も表も同じである。そこでバッグには裏地を付け、ほこりっぽくならないことと、中身のこぼれ落ち防止を施した。使い勝手を良くするために内ポケットもいろいろと付けた。これで内側は完璧である。問題は外側である。服にこすれると繊維の切れ端が無数に付く。コロコロを持ち歩かなければならないほど付く。猫どころの騒ぎではないかも知れない? これをどう防止するかが最大の課題である。大型手芸用品専門店に聞いてもドンゴロスは扱っていない。麻製の目の粗い布は置いているが、毛羽立ったごつごつ感が特徴であるため、これを抑えるようなものはないという。確かにそう言われてみると、この毛羽立ち感がいい風合いを出しているのである。これを抑えては価値が半減してしまう。しかし、実害がある以上それを何とかしなければならない。趣味はいろいろと手広くやっておくものである。アトリエの片隅にいいものがあった。これを使えば毛羽立ちを抑えることができ、かつごわごわ感も残すことができる。これでちょっと(かなり?)大きめのトートバッグの完成である。

 かつてはあまりいい意味で使われなかったドンゴロスであるだけに、持つ人のセンスが問われる。さて、どちらに転ぶか、ぶらっと出かけてみるか?