こぼれ種

<その1>

 毎年ミニトマトを7本前後栽培している。苗の購入時には、相当厳しくチェックをし、最良の苗を選んでいるが、1、2本は不良苗が混じる。これらは成長しても収量がほとんどないに等しい。この不良苗が混じることを前提に本数を決めている。また、年によっては害虫の影響を大きく受けることがある。これによる収量減も考慮に入れての本数決定である。収穫期には毎日ざる(直径23cm)に半分程度を食べることになる。これが1か月近く続くのである。年によっては苗のすべてが健全で、害虫による被害がほとんどないときがある。この時は大変である。毎日ざるに一杯は収穫できる。ジャムやホールトマトという選択肢はないので、ただひたすら食べることになる。それでも飽きることはない。なにせ、焼酎のつまみにしているので、あればあるだけ飲めばいいということになるからである。

 そんなミニトマトもほとんど収量がなく、色づきが悪くなると撤収となる。これらはすべて腐葉土にするために適度な長さに切断し、残渣置き場へ移動させる。そのとき完熟したものが数個落ちて踏みつぶされる。その場所は次の栽培植物のためにきれいに耕され整地される(今年は9月11日)。そこに新たな植物の種を蒔いてしばらくすると、見慣れた苗が発芽(9月29日)していることがよくある。毎年のことで、季節が合わずこのままでは枯れてしまうのですべて引き抜いている。今年は異常に多くの発芽があったので、ちょっと例年にない心の動揺があった。成長のいいものを数本掘り出し温室に入れた(10月23日)。ただし、ミニトマトは9種類(害虫発生を懸念し、今年は多めに栽培)植えてあったので、どの品種の苗かは不明である。

<温室内はぽかぽか>

 

<スイートミニイエロ―のネームプレートを紛失>

 

<その2>

 10月から11月ごろは、晴れた日であれば温室内は真夏並みに高温になる。夜は相当冷え込むことになるが、一向に成長が衰える気配はない。どんどんと背丈を伸ばし、脇芽をいたるところから伸ばすくらい元気がいい。トマトの原産地を考慮すると、この程度の寒暖差は大丈夫であると思われる。

 順調に育ち、花を咲かせるまでになった。季節は10月下旬である。温室内ということもあるが、季節的に授粉を媒介する虫が見当たらない。そこで、人工授粉(11月10日)をすることにした。方法は綿棒で花の先端に突き出ためしべに周りのおしべの花粉をこすりつけるのである。綿棒があまりにも大きく見えるくらい花が小さい。これで無事に授粉ができているのか心配であるが、花に聞くこともできない。それ以上に心配なのが、この時期に果たして無事に育つのかどうかということである。品種が違うものを1本の綿棒で授粉させているのも問題かもしれない。品種が違うと授粉しないかもしれないからである。雑種ができる分には一向にかまわない。むしろ新しい品種ができて歓迎である。いろいろと心配事はあるが、無事にトマトが成長してくれることを期待したい。

<品種は不明>

 

<綿棒で授粉>

 

<その3>

 数日間様子を見なかったのでワクワクしながら温室を開けてみた。一瞬にしてあのトマト独特の匂いが顔全体を覆った。これだけでものすごい感動を与えてくれる。それ以上の驚きと感動がすぐに目に入ってきた。見事に実を付けていたのである。後はこの実を無事に大きくし色付かせることである。そして最終目標は味を確認することである。

 11月26日、実は直径12mmになっていた。小さい方は8mmである。もう1本の木にも実が1個付いている。こちらはさらに小さな実である。わが菜園の実績によると、5月の連休頃に植えた苗であれば、花が咲いてから1ヵ月から1か月半で収穫している。この時期であれば、順調に育ってもさらに期間を要するものと思われる。おそらく年が変ってからの収穫になるだろう。それまでは大事に育てていこう。

 12月7日 この日もせっせと人工授粉である。あちこちで黄色い可憐な花が咲いている。同じ綿棒で授粉をさせているのでひょっとすると雑種ができているかもしれない。とは思いながらも、種を採取して来年蒔くわけではないので、一向にお構いなしである。とにかく授粉してくれればいい。大きな実は3個だけであるが、それらに続く小さな実は十数個ある。これらがすべて無事に完熟してくれることを期待しながら、脇芽の剪定を行う。最初にできた実は大きくなり、直径が20mmになっている。わずかではあるがじっくりと見るとやや赤みを帯びているように見える。それにしても20mmで赤みを帯びるとはやや早いようにも思えるが、おそらくかなり小さめのミニトマトであろう。今回ここで育成している苗の可能性は、スイートミニイエロー、純アマオレンジ、純あま、ルビーノ、ガンバ、プラムスイートレッド、アイコ、シュガーミニ、トウインクルの9種類である。この大きさと形からすると可能性のあるのはガンバ、シュガーミニ、トウインクル、スイートミニイエローということになる。やや赤みを帯びているのでスイートミニイエローが脱落である。さらに実の付き方から種類を限定すると、ガンバとシュガーミニということになる。ガンバとシュガーミニは実の付き方や大きさはほとんど同じである。違いを探そうとするが、ほとんど同等で決め手が見つからない。ここは見た目ではなく、ミニトマトが醸し出す雰囲気を大事にして種を判別するのが正しいように思う。こぼれ種から芽を出し、この寒い時期に実を付けたというこの力強さからすると「ガンバ」しか考えられない。そう、これは紛れもなく「ガンバ」である。そう思うとそう見えてくるから不思議である。大事に育てて、真っ赤に熟れた実を食べてみたい。そして「ガンバ!」と元気をもらいたいものである。

<11月26日>

 

<12月7日>

 

<その4>

もう一種類の苗にも実が付いている。こちらは実が長細いので、純アマオレンジ、純あま、ルビーノ、プラムスイートレッド、アイコということになる。こちらはもう少し実が熟成しないと判別がつかない。しばらく観察を続けることとするが、違う品種が育っていたということは、それだけ多くの完熟した実が落下していたということである。

12月17日、昨日から急激に寒くなった。今冬もっとも強い寒気団がやってきた。寒さの度合いを測るうえで最も有効な方法は、アトリエで吐く息の白さと広がりである。この日は度を越していたので、さらにその上の測定基準を確認した。菜園内のメダカ池である。ここに氷が張っていたので、これはかなりの寒さと判定できる。心配になりトマトの温室をのぞいてみたところ、てきめんに影響を受けていた。苗の上端がすべて萎れて枯れたような状態になっている。このまま枯れてしまうのか、それとももう一度復活して力強く成長していくのか? 温室とはいってもビニールで囲っただけで、夜中の寒さは外気と変わりがない。唯一違うのは、風を遮ることができるのでそれによる温度低下がないくらいである。温室上方からの冷気の下降を防ぐために、屋根にドンゴロスを掛け、内部を二重にした。これにより温室内は空気の層が2重になり、わずかではあるが外気温と同等になるまでの時間稼ぎができる。しばらくはこの状態で様子を見ることとする。

<この品種は?>

 

<防寒対策1>

 

<防寒対策2>

 

<防寒対策3>

 

<寒さには勝てないか?>

 

<その5>

 12月28日、寒さが厳しくなり、内部を2重にしたくらいでは寒さをしのげそうにない。日中の陽が当たる時間帯は、夏にも負けないくらいになるのだが、夜の冷え込みはやはり冬そのものである。この寒暖差がよくないもかもしれない。徐々に葉が枯れていく。

 1月9日、今季最強の寒波がやってきた。年末以上に葉が枯れてきた。実もほとんど色づき加減が変化していない。葉はまだわずかながら緑を保っているので様子を見ることにした。翌日、温室をのぞいてみると、木はぐにゃりと折れ曲がり、実はすべて落下していた。すべての木が寒さで枯れてしまった。この程度の温室では、成長を維持することは無理であった。これで、所期の目標であった品種と味の確認はできなくなってしまった。それぞれの植物が持つ特性から外れたことをしても、手間暇がかかるだけで期待に応えられないというのが現実。結果として植物に無駄なエネルギーを使わせることになってしまった。それぞれの植物に合った環境で育てることがもっとも重要である、ということを改めて気づかされた。最適な環境(季節を含む)を外れて栽培される野菜には少なからずストレスが溜まっているかも知れない。旬の野菜を食するのがベストであることを改めて実感させられた。

<1月2日:かなり重症>

 

<1月10日:完全にアウト>

 

<実が全て落下>