4.転倒

 ロードレーサーでさっそうとサイクリングロードを走る。非常に気持ちがいい。春、秋の気候のいい時であればさらに気持ちがいい。このような走りを何度も経てきた。自転車で走るという場合、自転車を「こぐ」という表現をする。通常の自転車の場合はペダルを踏み込めばいい。しかし、ロードレーサーの場合はペダルを踏み込むのではなく、回すのである。そのためには、ペダルと靴が一体でないとできない。スキー靴と板の関係と同じである。ビンディングという装置で固定するのである。外したいときは足を横にひねれば外れる。これで踏み込むときだけでなく、引き上げる時もペダルを回すことができる。足の疲れを軽減できるのと同時に、より速く走ることができる。レースに出るような場合には効果を発揮する。今のようなビンディングがなかった時代は、革ベルトで靴をペダルに固定する方式であった(初代はこの方式である)。もちろん緊急時にはワンタッチで外すことが可能である。理屈はそうであるが、30~40kmの距離をゆったりと走る場合にはほとんど必要としない。むしろ弊害の方が多い。では、どのような弊害があるのか? 転倒するのである。サイクリングロードを出て一般道路を走ると、当然のことながら信号機がある。自転車といえども、交通ルールは守らなければならない。赤信号は止まれである。止まって、足を着こうとしたところ足が動かない。足はペダルに固定されているのである。冷静に考えれば、ちょっとひねればいいのであるが、いかんせん、とっさにはなぜ足が動かないのか理解ができない。そうこうしている間にも体はどんどん傾いていく。倒れるのがわかりながら、何もできずに倒れるのである。これほど恥ずかしい倒れ方はない。周りの人からすれば、気を失って倒れたように見える。とにかく早く立ち上がりたい。そして早くその場を立ち去りたい。その一心である。焦れば焦るほど足がペダルから外れてくれない。やっとのことで足を外し、何事もなかったような顔をして立ち去るのである。しかし、倒れるまでの時間というのはかなり長く感じるものである。結構、いろいろなことを考えている。もっと長く感じるのは倒れてから立ち去るまでである。とんでもなく長く感じる。もし、だれも見ていないところで、倒れてみようとしても怖くて倒れられない。しかし、突然足が動かせず倒れていく時は怖さを感じない。あるのは恥ずかしさだけである。同じ倒れるという行為であっても、その時の状況でこうも変わるものなのかと思ってしまう。

 2回目の転倒もやはり恥ずかしいものであった。こちらも信号で止まろうとして、ブレーキをかけたところ、後輪が滑ってしまった。あわてて足を着こうとしたが、前回同様に足が外れなかった。今回は足をひねって外すという行為は試みた。しかし、転倒があまりにも早く、完全に外しきれていなかった。どうもこの方式は一般道を走るには向いていない。そこで、ペダルを交換することにした。ペダルの上面を使用するときは、ビンディングで靴を固定する。裏面を使用するときはビンディングの固定はなし。これで、サイクリングロードと一般道を両立させることができる。それ以来、転倒とは無縁である。

 「七転び八起き」、人生では数えきれないくらい転んだが、ロードレーサーでは「二転び二起き」である。もう、これ以上は決して転ばないようにしたい。人世でも・・・。

 

<旧タイプ>

 

<ビンディング:裏面>

 

<ビンディング:上面>