25.自殺

 これは「菜園コラム」用に書いたものであるが、内容がちょっと重たい感じがするので、こちらへ移すことにした。

 我が菜園では、いたるところでマリーゴールドが咲いている。決して観賞用ではない。害虫(?)退治のためである。害虫というにはちょっと大げさかもしれないが、根こぶ線虫退治に効果があるとされている。これはアブラナ科の植物の根に寄生する。そして、根にこぶを作り、発育障害を起こす。白菜や小松菜が多く被害を受ける。マリーゴールドをいたるところで咲かせるには、それだけ多くの種を蒔かなければならない。経費節減のため、花が咲いた後種を収穫する。そして、翌年その種を蒔くのである。ところがまったく発芽しない。通常、4、5日、遅くとも1週間あれば発芽するにもかかわらず、まったく発芽しない。不思議に思いつつ再度種を蒔いた。が、結果は同じであった。まったく発芽しないのである。種を確認すると、スカスカでペラペラである。どうも実が入っていないようである。これでは発芽しないのもうなずける。去年、菜園内で咲いていたところには多くの種が落ちているはずである。確認してみると、その場所には2、3本のマリーゴールドが発芽していた。このことからすると、まったく発芽しないというわけではない。おそらく数千個の種(1つの花で50~60個の種ができる)が落ちているはずである。発芽率にすると、0.1%以下であろう。野菜の種を購入すると、種袋の裏に種蒔き時期や生産地とともに発芽率が記入されている。どのような野菜の種でも、70%以上はある。このマリーゴールドの発芽率は驚異的に低い数字である。今までに購入した種袋を調べてみると、「F1」または「交配種」と書かれた種がある。これらの種は1代限りで、2代目以降が生まれることは想定されていないことを意味している。このマリーゴールドの種袋には「F1」または「交配種」とは書かれていなかったが、発芽率からして間違いなくF1である。

 さらに恐ろしいのは、自殺する種である。『ターミネータ技術といって、作物に実った二世代目の種子には毒ができ、自殺してしまうようにする技術のことです。この技術をタネに施して売れば、農家の自家採種は無意味になり、毎年種を買わざるを得なくなります』(自殺する種子:安田節子)。家庭菜園程度の規模なら、毎年種を買っても問題はないが、農業を職業としている人にとっては死活問題である。

 また、無事に発芽する種を手に入れても使用できない場合がある。『モンサント社のGM作物の種は「知的財」として法的に保護されているので、農家がモンサント社のGM(遺伝子組み換え)大豆の種から自家採取した種を翌年まくことは「特許侵害」になるのである。モンサント社の「警察」が監視しており、違反した農家は提訴されて多額の損害賠償で破産するという事態がアメリカでも報告されている』(食の戦争:鈴木宣弘)。このように、種を蒔けば収穫できるという時代ではないようなことが起きている。

 以前読んだ本に、ビル・ゲイツが北欧の山中に地下トンネルを掘り、そこに世界中から集めた食物の種を貯蔵している、というのがあった。コンピュータの世界は流れが速すぎて先が読めないため、方向転換して今後確実にやってくる食料危機に対応?

 OSのウインドウズで苦労させられた身としては、食料に関しては何としても同じ失敗を避けたいところである。そんなことを考えながらわがアトリエの冷蔵庫を見ると、50種類程度の野菜の種があった。発芽率は少々落ちているかもしれないが、まだ十分に栽培は可能なはずである。これだけあれば副菜としての役割は十分に果たすことができるだろう。しかし、肝心の主食である米がない。いや、その前に主食を栽培するための広大な土地がない。あっ・・・、まさか冷蔵庫で保存している種子が、すべてF1ということは?・・・。