21.コーヒー

 コーヒーは好きでよく飲む。毎日、4~5杯は飲む。しかし、缶やインスタントコーヒーは飲まない。特別こだわりがあるというわけではない。単にそれらのコーヒー臭が体質に合わないから飲まないのである。コーヒー豆を挽いて入れるのが、最も自分の好みに合っているように思う。ミルで豆を挽くのであるが、これが相当な重労働である。かといって、挽いた豆を買ってきたのではありがたみに欠ける。毎回豆を挽くところに、何となく味わいが出てくるような気がする。今ではこの重労働を少しでも緩和させようと、コムギを挽くために購入したミルを使用している。これは大型で、かつテーブルにシャコ万(固定用金具)で固定して使用しているので楽に豆を挽くことができる。それでも浅煎りの豆は硬いので力を要する。豆は数種類ストックし、購入日と産地が明記してある。豆の保存には炭酸水用のペットボトルを使用している。これに入れると面白いことが起こる。焙煎して日が浅い豆を入れておくと、ペットボトルがパンパンに膨れるのである。蓋を緩めた瞬間にプシュッと空気が漏れる。このときの香りが最高にすばらしいのである。もうこれだけで最高の1杯分を飲んだような気分になる。焙煎して日が経つと、ペットボトルは何の変化も起こさない。おそらくガス(二酸化炭素)がすっかり抜けてしまっているのだろう。あれだけいい香りがするのだから、香りの方もかなり抜けてしまっているような気がする。大手のコーヒー店では、一度に大量の豆を焙煎するので、焙煎後かなりの日数が経ったものが多い。これでは一度で二度おいしいコーヒーは味わえない。

 数年前から、神戸の街を歩いていて気になっていたのは、コーヒー豆を焙煎して売っている小さな店が多いことである。話を聞くと、直接現地まで豆を買い付けに行く、あるいは輸入業者から直接購入しているという。それを自分流で焙煎し、販売しているのである。このような店が数多くできている。豆に対する思い入れも相当なものである。変形や割れた豆は、味に雑味をもたらすということで丁寧に選別している。焙煎に関してはそれぞれの店が独自性を出している。いろんな店の豆を味わって、自分に一番合う店を選択することになる。このような店では一度に大量の豆を焙煎しないので、常に新鮮な豆を購入することができる。毎回ペットボトルがプシュッといい音と香りを提供してくれるのが楽しみである。わがアトリエでの消費量は週に300gである。年間に換算すると15.6kgとなり、これは輸入用のドンゴロスで半分の量である。

 コーヒーはどのようにして飲むのが最もおいしいか? これはちょっと恥ずかしいが、砂糖とミルクを入れて飲むのが最もおいしいと思っている。ただ、砂糖とミルクにはこだわりがある。砂糖は最も癖のないグラニュー糖、ミルクは生乳100%で脂肪分が30%以上のものでないといけない。ミルクを入れると温度が急激に下がってしまうので、温度の維持にも気を使う。このようにすることで、コーヒーそのものの味がガラッと変わってくる。非常にコクが出てまろやかになり、コーヒー本来が持っているもの以上の味がして、全く別物といった感じがする。食後のコーヒーはこれに限る。しかし、創作活動の合間や読書中に飲むコーヒーはブラックである。このような場合は、コーヒー本来の味や香りを楽しむのがいいように思う。この飲み方だと後味がすっきりとして、すんなりと次の作業へ移ることができる。やはり日常的に飲むには何も入れないものがいい。やや薄めに入れたコーヒーをそのまま飲む。これだと飽きがこなくていくらでも飲める。人間もあまり灰汁を強く出さず、控えめで過ごすのがいいのかもしれない。特に齢を重ねると、やや薄めにドリップしたコーヒーのように、あまり強い苦味を出さない方がいい。そして、割れたり変形した豆を選別したように雑味は出さない方がいい。しかし、香りだけはしっかりと醸し、存在をそれとなく主張しておくことが重要である。