7.サイクリング

【その1】

 春、サイクリングには最適な季節である。さて、どこを走るか? 街中? 峠? いろいろと走るところはあるが、今回はちょっと長距離を走ることにした。「しまなみ海道」である。ご存知のように自動車道にサイクリングロードが併設されているところを走るのである。自動車道と並走といっても島と島を結ぶ橋の部分だけである。それ以外はそれぞれの島の一般道を走るのである。以前から走りたかったところではあるが、天候が不順で日程を決めるのに苦労した。週間天気予報で最も晴天が期待できる日を選択したが、途中で2度日程をずらすことになった。そのためホテルは駅からかなり離れたところになってしまった。それでもまだ1日早かった。つくづく天気予報のいい加減さを思い知らされた。

 愛車に愛車(ロードレーサー)を積み込み、2泊3日の旅である。初日は午前中に尾道まで250kmを走り、午後から市内観光と尾道ラーメンである。ラーメンは食べた瞬間にどこかで食べたことのある懐かしい味がした。二口目を食べたときにその味が解明した。日清のチキンラーメンである。安心感と安定感のある味である。この日は昼も夜も尾道ラーメンである。翌日は朝からしまなみ海道をサイクリングである(これについてはサイクリング(その2)(その3)を参照)。

 ということで、ここからはサイクリングで無事尾道に到着してからの話になる。たっぷりと汗を流し、喉をカラカラにしてある。空腹もほとんど極限状態である。高カロリーの摂取を考慮し、ランチ抜きでの激走である。適度をはるかに越えた疲労感を伴っている。準備万端である。これでビールは2.5倍程度美味くなること間違いなしである。

 ホテルへ戻りシャワーを浴びれば、いよいよその時間の到来である。尾道の海産物で美味しい地酒を満喫することとする。街中は昨日じっくりと散策してある。尾道で最高であろう、と思われる<尾道の鮨と魚料理の店:保広>へ入店。開店間もないというのに、もうすでにほとんど満席である。かろうじてカウンター席を確保することができた。喉がくっつきそうなくらいカラカラなので、とりあえずビールで喉を適度に湿らせることとする。五臓六腑に染み渡るというが、まさにそれである。ここまでカラカラになると、この感じが最高によくわかる。体中の細胞が待ち焦がれた水分である。頭ではなく体中の細胞が酔い始めるのがわかる。ビールの美味さは予想をはるかに超えている。3.5倍は美味い。つまみが必要ないぐらい美味い。1杯では足らないのでもう1杯追加で飲む。まだ飲めるがこのままでは美味しい海産物が食べられない。ビールを切り上げ広島の地酒である宝剣に切り替えた。すっきりとした喉越しがどんなつまみもすんなりと受け入れてくれる。地元産の鮮魚で気分もお腹も大満足である。あまり飲み過ぎると翌日のドライブに影響するので、ほどほどで切り上げた。「尾道の夜はまだまだ宴たけなわではございますが、このあたりでお開きとさせていただきます」・・・。のはずであったが、どういうわけかホテルへ戻るといい時間になっていた。風呂に入り疲れをとると、早くも寝酒の時間である。缶ビールと乾き物で軽く一杯。あとは地元福山の紅東で作った本格芋焼酎赤福山のお湯割りである。心地よい疲労感とともに睡魔が押し寄せてくる。

 翌日は倉敷インターチェンジで高速を下りて、美観地区の方向へと車を走らせた。美観地区は何度来てもいいところである。平日にもかかわらず多くの観光客であふれていた。昼食はメインストリートから少し外れた所にあるイタリアンでパスタ&ラザニアを食べた。かなり価値のあるランチであった。倉敷には酒津焼があるので、ついでと言ってはなんであるが窯元へ寄ることにした。さらに帰り道にあるのが備前焼である。こちらにもちょっと寄って焼き物を見ることにした。窯元のはしごである。見るだけの予定が、やはりいいものを見ると・・・。というわけで、身も心も満足した2泊3日であった。

<愛車に愛車を乗せて出発>

 

<尾道駅>

 

<天寧寺より尾道港を望む>

 

<満開の桜と尾道港>

 

<アイビースクエア>

 

<美観地区 その1>

 

<美観地区 その2>

 

<美観地区 その3>

 

【その2】

 しまなみ海道は6つの島(尾道側から、向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島)を結んで尾道から今治まで通っている。それらに架かる橋は、(新尾道大橋)※1、因島大橋、生口橋、多々羅大橋、大三島橋、伯方・大島大橋、来島海峡大橋である。総距離が70kmのサイクリングコースである。往復するには距離が長すぎるので片道だけ走ることにした。車で尾道まで来ているので、片道では車に戻れない。そこで、尾道から今治までバスを利用することにした。座席にロードレーサー(最大で6台)を積めるようにした「しまなみサイクルエキスプレス」なるバスが運行されている。それで今治まで行き、そこからスタートするのである。バスで移動すること1時間20分。驚くことに、この間誰も乗ってくる人がいない。完全な貸し切り状態である。バス1台を貸し切って尾道―今治間が2,250円である。何とも驚くべき安さである。8時30分、今治駅前をスタートする。が、どちらを向いて走っていいものやら・・・。駅で確認すると、駅前にあるローソンの前の道路に目印があるという。行ってみると確かにあった。しまなみ海道の今治側の起点を示していた。ここからブルーのラインに沿って走れば、尾道に着くという。何ともありがたいラインである。途中何度か消えたり、2本あったりで迷うことはあったが無事に尾道まで誘導してくれた。

 今治駅を出て5km、最初の橋が来島海峡大橋である。三連吊橋で、しまなみ海道で最も美しい橋である。最初にこの美しさを見てしまうと後の橋がかすんでしまう。あまりにも感動が大きく、興奮を抑えることができない。かなりテンションが上がってのスタートとなってしまった。これがこの先大きな間違いを起こす原因になろうとは、この時はまだ思ってもみなかった。空はどんよりと曇っていたが、天気予報を信じれば雨の心配はない。ただ、気温の低さには閉口した。完全な冬仕様の服装である。もちろん手袋も冬用である。

 走り始めて15km。口笛を吹きながら余裕の走りである。ガイドブックによると、「しまなみ海道一の絶景ポイント。標高307mの亀老山山頂まで3.7km。自転車では超難関※2」となっていた。六甲山や乗鞍を上った実績からすると、超難関程度では驚かない。ハイテンションのなせる業である。しかし、上り始めて直ぐに後悔が始まった。かなり手ごわい。今回のサイクリングで、唯一Tシャツ1枚で走ることとなった。それでも汗びっしょりである。六甲山ほどではないが、乗鞍程度の斜度はある。距離が短かったので助かった。何とか上り切ったが、これで終わりではない。しまなみ海道サイクリングは始まったばかりなのである。この先がやや心配になってくる。山頂の売店で、藻塩ジェラートを食べ、塩分と糖分を補給して今後に備えた。しまなみ海道一というだけあって、さすがに山頂からの景色は最高であった。天気が悪いにもかかわらず感動ものであった。

 亀老山を下り、しまなみ海道に戻ってサイクリングの再開である。ここでのヒルクライムがこの先ボディブローのようにじわじわと効いてくる。

 

   ※1 新尾道大橋には自転車道路が併設されていない。

   ※2 亀老山の平均斜度8.8%、最大斜度14%とかなりの難関である。

 

 <今治駅>

 

<ここが今治側の起点>

 

<来島海峡大橋に向けて登坂中>

 

<来島海峡大橋手前>

 

<橋の真下に到着>

 

<桜が満開の亀老山山頂>

 

<亀老山山頂から来島海峡大橋を望む はるかかなたが今治>

 

【その3】

 しまなみ海道サイクリングロードという名称を聞くと、平坦で走りやすそうな感じを受けるが結構な高低差がある。その原因は橋と島にある。自動車道は一定の高さで島と島を結んで走っている。しかし、サイクリングロードは橋を利用させてもらっているが、それ以外は島の一般道を走っている。つまり標高0mに近いところを走っている。そして、橋が近づくとそこまで上らなければならない。その高さと勾配がかなりある。最大のものは来島海峡大橋で80mぐらい上らなければならない。他の橋は50m程度である。また島の中を走る場合、海岸沿いの道もあれば峠越えもある。これらの高低差を合計すると400m程度を上ることになる。高低差の大きいサイクリングロードといったところである。さらに、今回は亀老山ヒルクライムが加わった。しかし、これだけではすまない。海岸に沿っての道路は向かい風をまともに受ける。この日は北西(尾道方面)の風が強く、最悪の条件となった。これをまともに受けるところでは、坂道と同じくらい進まない。

 今年は例年に比べると寒い日が続き、桜の開花が2週間程度遅れた。その遅れた恩恵を最大限に受けることができた。今治から尾道までの島という島で満開の桜が出迎えてくれた。数百本どころではないだろう。おそらく一千本近くはあっただろうと思われる。桜のすぐ下を走る、はるか前方の山を見ると桜、左右の山を見ても桜。いたるところが満開の桜である。1日で見た桜の数としては最高である。これだけの数を1日で見ることは、おそらくこれからもないだろう。島には桜だけではなく柑橘類が多い。いたるところに柑橘類がなっている。調べてみると、「サンフルーツ」「甘夏」「レモン」「八朔」「はるか」「デコポン」「せとか」「清見」「かがやき」「なつみ」等、ものすごい数である。

 満開の桜に励まされながら、14時50分向島の渡船乗り場に到着した。ここが事実上のゴールである。あとは渡船で数百メートルの尾道水道を渡ると尾道駅前のゴールとなる。大人100円+自転車10円の合計110円である。ユニークなゴールの仕方である。15時5分、スタートから6時間35分で尾道に到着である。途中、あちこちに寄り道をしたこともあり、88kmの走行距離となった。

 今回のサイクリングで、この素晴らしいしまなみ海道をもっと多くの日本人に利用してもらいたいと思った。途中出会った人の半数以上が外国人であった。彼らは今治―尾道間を走り切るというようなサイクリングではない。レンタサイクル(乗り捨て可)で隣の島まで行き、帰りは船やバスを利用する、といった走り方である。気軽に自然を満喫している感じがする。ここには一般道路を自転車で自由に走れるという安心感がある。路上駐車がないし交通量もほとんどない。あるのはすばらしい自然だけである。その中に人工物である巨大な橋が突然現れる。「違和感」、「驚き」、「不思議」、「偉大さ」、「感謝」、・・・いろいろなことを感じるが、やはり「感動」が最もふさわしいように思う。橋の上ではゆっくりと走り景色を堪能できる。もちろん止まって眼下の潮流の速い海や、遠くに見える島々を眺めることも自由である。

 日ごろからロードレーサーに慣れ親しんでいるとはいえ、かなり手ごわいサイクリングとなった。理由はただ一つ。夜の高カロリー摂取を考慮して、ランチを抜き、水分を押さえたことである。そのおかげでビールと地酒、海の幸がより一層印象深く心に刻まれた。のらり、くらり、のーんびり。旨いものを食べ、旨い酒を飲む。そのためなら少々の苦労はいとわない。ちょっと勘違いした感動を得たサイクリングであった。

 

<伯方・大島大橋  きれいな形をした吊り橋>

 

<大三島橋  手前も向こうも桜が満開のアーチ橋>

 

<多々羅大橋  桜の向こうに斜張橋>

 

<生口大橋  左側が自動車専用道路>

 

<因島大橋  上が自動車専用道路>

 

<渡船乗り場  通勤ラッシュ帯を除けばのーんびり>

 

<渡船中  泳いでも渡れそうな距離>

 

<尾道港>

 

<ゴール>

 

【オマケ】

<某島で見た食堂の看板  効果の程は?>