コケ

 植木鉢で木を栽培している。世間ではこれを盆栽というのだろうが、とてもその域には達していない。どのようなものが盆栽と言えるのかさえも知らない。ただ、植木鉢に木を植えて好きかってに枝を剪定している。家庭菜園との大きな違いは、手がかかるということである。剪定もさることながら、夏の水やりである。朝水をやったにもかかわらず、夕方には葉がしおれている。1日に2度必要な時がある。大きな植木鉢に植え替えればいいようなものだが、そうなるとバランスが悪い。仕方なく日に数度水をやってしのいでいる。

 何とかいい方法がないものかと思案を巡らせていると、いい方法が見つかった。夏の間だけ、植木鉢の表面に新聞紙を厚めに敷いておくのである。そうすれば新聞紙が水分をたっぷりと吸い乾燥を防げる。しばらくこれで様子をみたが、見た眼の美しさにかける。きれいなカラー広告の面にしたが、なんとなく不釣り合いである。さらに思案を巡らすと、いい案が出てきた。植木鉢一面に苔を張るのである。そうすれば表面の乾燥をかなり防げるうえに見た目もれいで上品に見えるのではないだろうか。最近のホームセンターではコケも売っている。しかしすべての植木鉢にびっしりと敷くとなると、けっこうな値段になる。ではどうするか? 自然界に生えているものを採取すればいいのである。というのは簡単なのであるが、いざ採取しようとするとなかなか見つからない。かつてコケを見た場所を思い出してみると、山の中のちょっと薄暗いようなところで、湿っぽい土地や岩肌である。早速日課にしている山歩きを兼ねて採取に出かけた。それらしい場所へ入るが、意外とまばらでこんもりと盛り上がったようなコケには巡り合わない。ましてや、岩肌についたコケはどうあがいてもむしり取れない。コケの採取はあきらめることにした。

 ある日散歩をしていると、道の片側のアスファルトの上にコケがびっしりと生えているのを見つけた。幅5cmくらいで、ず―――っとつながってる。片側には生えているがもう一方の方には全く生えていない。道路の縁石で直接陽があたらない側だけに生えていた。やはり直射日光は苦手のようである。しかし、薄暗い湿気の多い場所というのには当てはまらない。下はアスファルトで、うっすらと溜まった砂の上に生えているのである。そのため幅は5cm程度しかない。それ以上に広がろうとしても土がない。見た目にもふっくらとして乾燥防止用としては申し分ない。

 ここで問題が一つ浮かんできた。道路に生えているということは、湿気の多いところにはむいていないのかもしれないということである。植木鉢は日に1度たっぷりと水をやる。これに耐えられるのかどうか? これに耐えられれば、植木鉢の乾燥防止役として非常にありがたい。見た目にもしっくりと融和している。何気なく植えた木でも“ザ・盆栽”に見えてくる。高級感あふれる演出をしてくれる。

 最近では、木よりもコケの手入れに忙しい。本末転倒な盆栽である。