時計ケース

 

  この作品を見ると、時計コレクターがそれらを保存するケースを作った、と思うのが普通である。大きくは間違っていないが、ちょっと間違っている。時計とはいっても、その本体ではない。興味があるのは時計バンドである。一般的に時計バンドといえば、金属バンド、黒や茶の地味な革バンドがほとんどである。これでは個性が主張できない。服で個性を主張するほど大胆にはなれない。プチ主張を信条にしている。それをネクタイで行うとなると、これはかなり難しい。一歩間違えると滑稽になってしまう。そこで、いろいろ物色したところ、時計バンドが最適だろうというところに落ち着いた。服装や気分に合わせてバンドの色を変える。同系色のときもあれば、全く突飛もない色のときもある。それはそれでインパクトがある、と思っている。

 本題の時計ケースであるが、材質は屋久杉である。非常に木目が細かくてきれいである。樹齢1000年を超えたものを屋久杉というらしい。実際にその年月に達しているかどうかはわからないが・・・。名が示す通り杉材のため、非常に柔らかく加工はしやすいのであるが、傷がつきやすい。したがって、出来上がったケースは、漆でがっちりと固めて傷がつかないようにしてある。しかし、内側には漆を塗っていない。理由は、その香りにある。屋久杉の素晴らしい香りを殺さないためである。ケースを開けたとたんに、いっきに広がるその香りは、屋久杉の年輪にも劣らないほど濃縮された時間の重みを感じさせる。思わず時計を手にすることを忘れてしまう。わずか数年で電池が切れる電子時計では、居心地が悪く、肩身の狭さを感じていることだろう。