大事件勃発

 某日早朝、「たいへん! たいへん! 菜園内にカラスが入り、ネットに激突している!」と家人に起こされた。大急ぎで菜園へ向かうが、その手前で足が止まってしまった。菜園の後部上方の電線に、ざっと見て50羽程度のカラスがいる。しかも、それらが口々に「カー」「カー」「カー」「カー」「カー」「カー」「カー」「カー」と、恐ろしいくらいの声で鳴いている。そのもっとも近いところの菜園内のネットにカラスがしがみついている。もちろんこれも「カー」「カー」と鳴きながら、必死で逃げようとしてネットを噛んでいる。しかし、簡単には破れない。これは数年前に更新したものである。それまで使用していたものは紫外線に弱く、3年程度であちこちが破れてしまう製品であった。それを解消するために、強度があり紫外線にも強いネットに交換した。人間でも、ちょっとやそっとの力では破ることができない。もちろんカラスの力ではとうてい無理である。

 電線に止まっているカラスの群れからネットまでの距離は5m。近づいても全く逃げる気配がない。意を決してカラスの追い出しにかかることにした。もし、これだけのカラスが一斉に攻撃してきた時はどうしよう? という不安がよぎった。が大丈夫、菜園内はネットに囲まれている上に、ここには反撃できるだけの農機具が多数ある、と心を落ち着かせた。何とかなるだろうと自らを奮い立たせ近づいて行くと、1羽のカラスが道路上からネット内のカラスを心配そうに見つめていた。母カラスかもしれない。横へ回り込んで出入り口の方へ導こうとするが、興奮状態でネットを突き破ることしか考えていないようである。羽を広げてばたばたすると、その大きさと黒さがより際立つ。手を振り、足をばたつかせ、声を出して、ようやくネットから離すことができた。あとは出入り口に向かって追っていくだけである。奮闘すること数分、ようやくカラスは出入り口から逃げて行った。そのときはじめて菜園の両側と出入り口側を見たが、そこにも50羽程度のカラスがいた。合計で100羽は超えていただろう。もし、最初にこの光景を見ていたら、ひるんでしまい近づけなかったかもしれない。それくらい恐ろしい数であった。黒い物体が屋根という屋根に止まっている。まるでヒッチコックの世界である。菜園内のカラスが無事に逃げていくと、すぐにすべてのカラスが一斉に飛び立った。

 今回の一件でわかったことは次の4つである。まず1つ目は、カラスは言葉を持っているということである。菜園内に入り出られなくなったカラスは、おそらく巣立って間もない若者だろう。経験と知識が不足しているにもかかわらず好奇心だけは異常に強い。食べ物を求めて入ったものの出られない恐怖から、「助けてー」と叫んだのであろう。それを聞きつけた親族がさらに助けを求め、これだけのカラスが集まってきたのだと思われる。そして、解放されると「無事に逃げ出せたよー」と発したので、一斉に全羽が飛び去っていった。2つ目は、彼らの連帯感の強さである。仲間が危険にさらされると、声を聞きつけたカラスが一斉に集まってきて、解放されるまでそこから立ち退かない。人が近づいても恐れることがない。そして3つ目は、この地域(カラスの声が聞こえる範囲?)にこれだけの数のカラスが存在していたことである。ゴミ出し日に数羽が集まってゴミ袋を引きちぎり、道路上にごみを散乱させているのはよく見かける。年に数回、数十羽があちこちの屋根や電柱に止まり、大集会をやっているのを見かけたことはある。しかし、100羽を超えるカラスが存在していたのには驚いた。そして最後の4つ目は、上記3点より決してカラスをいじめてはいけないということである。

 カラスは頭のいい鳥であるが、ここまではっきりと言葉を持っているとは思わなかった。この大事件以降、「カー」「カー」と鳴いている声にも、何か意味があるのではないかと想像してしまう。この地域を取り仕切っているボスガラスを呼んで、カラス語を勉強しようと思うが、物覚えの悪さを悟られるのが怖くていまだにふみきれていない。

 ところで、今回の一件で、「カラスの恩返し」を期待しているのだが・・・。いまだにそれが形として表れる気配がない。