59.夏バテ

 幸いにも夏バテとは無縁である。無縁というよりは無縁になる秘訣がある。汗かきなので夏の暑さは好きではない。真夏日の日中、汗を流しながら出歩くことは多いが、疲れてぐったりとすることはない。勘違いする人が多いが、暑いからぐったりとするわけではない。ぐったりする理由は疲れているからである。では、なぜ疲れるのか? 気が付いていない人が多いのであるが、それは睡眠不足が原因である。本人はしっかり寝たつもりでいるが、実は寝ていないのである。寝ていないというよりは、熟睡できていないのである。それゆえ、起きたときから気だるさを感じて、夏バテだと思い込んでいるのである。

 学生時代、自慢ではないが勉強は前期・後期の試験前1か月のみであった。半年分の勉強を1か月でこなさなければならないのであるから、睡眠不足になるのは当たり前である。毎日の睡眠時間は3~4時間、時として徹夜もある。これを1か月続けるとどういうことが起きるか? 最初に現れる現象が食欲不振である。全く食欲がわかない。なにを見ても食べたいとは思わないし、食べても美味くない。体のだるさは常時感じるようになり、吐き気ももよおすようになる。最終的には足元がふらつき、めまいもするようになる。しかし、試験が終わり、ぐっすり眠ると、人が変わったかのように食欲が出、それに伴い元気が出てくる。結局、疲れの最大の原因は寝不足である。この経験があったからこそ、夏バテという世間で言われているまやかしに引っかからなくて済んでいる、と思っている。

 では、夏バテの原因である寝不足をどうやって解消するか? いたって簡単である。寝やすい条件を整えてやればいいのである。暑がりの人間が、日中の焼けつくような太陽をまともに受けた建物の中で寝られるわけがない。夜中になっても30℃を下回ることがない。これでまともに寝ようとすることに問題がある。これでは8時間、9時間、10時間寝ても睡眠不足であろう。寝ているのではなく、目をつぶっているだけであるから、脳も体も疲れが取れない。寝るためには人それぞれの適温がある。暑がりの身では22℃以下でないと熟睡できない。何回か、23℃設定で寝たが、夜中に暑くて目が覚めた。わずか1℃であるが、非常に重要な意味を持つ温度差である。夜中に暑くて目が覚めない室温が22℃ということになる。もちろん、この室温で寝るのに、薄手のタオルケット1枚をお腹に乗せて寝るような無謀なことはしない。使用するのは冬用の羽毛蒲団である。要するに、1年中同じ羽毛蒲団で寝ているのである。それで寝られるように室温の方を変えているのである。枕が変われば寝付けないというのと同じで、布団が変わればうまく寝られないのである。これで熟睡ができれば、食欲不振は起こらないし疲れも出ない。毎日を元気に過ごせるのである(これはあくまでも個人の感想です)。

 美容と健康に関する情報には、大げさなものが多い。温度差などもいい例である。夏の室温は28℃設定が理想である、という。日中、外気温が35℃にもなるような真夏日では、室温が低いとその温度差に身体が対応しきれないからだという。台湾、タイ、シンガポール等、いろいろ旅行をしたが、公共交通機関やデパート、レストランなどは上着がいるくらい冷房が効いている。温度差なんてまったく気にしていない。もし、問題があれば国民が騒いで改善されているだろう。なぜ日本人だけが温度差に弱いのだろうか?

 かつてよく聞いた話に、北海道の人が本州へ転勤で来ると、本州は寒いという。理由は、北海道では部屋ではなく家中を暖房しているからである。本州では居間や寝室だけの暖房であるから、廊下、風呂、トイレが寒い。それが本州は寒いとなるらしい。冬の北海道では、場所によってはマイナス20℃くらいになる。ところが、室内は20℃程度で、温度差はなんと40℃である。体が温度差に対応できないから、室内の温度をマイナス15℃にしましょう、などという掛け声を聞いたことがない。ましてや、冬バテなんていう言葉も聞いたことがない。

 なぜ、夏の冷房だけが問題になり、冬の暖房は問題にならないのか? 夏バテでぐったりしたり、熱中症で倒れる前に、もっと真剣に考えてみる必要があるように思う。