65.カレー風味

 カレーといえばどのようなものを想像するだろうか? 大きなジャガイモやニンジンがゴロゴロと入った家庭で食べるカレー、あるいは本格的なインドカレーだろうか。どちらにしても多くのスパイスをブレンドし、黄色い色をしたものが主流である。色の主役はウコン(ターメリック)である。色は強烈で、白い服にそれが付くとしっかりとシミになってしまう。もう、どうやっても落ちないくらいしっかりと色が付く。それならばと、ウコンで白いハンカチを染めてみた。しかし、洗うたびに色が薄れてくる。それだけでなく、洗った後太陽に当てて乾燥させるとさらに色が落ちる。付いたシミは落ちないが、染色した布は色が落ちる。結局どちらもほとんど同じ色になって残るのである。そのわずかな色が、ワイシャツであればシミになるし、布であれば色落ちとなる。匂いの主役はクミンである。これが食欲をそそるのである。いい意味での主役であるにもかかわらず、ここでは悪い意味での主役になってもらう。

 というわけで、カレーは和風もインド風も大好きである。和風は御飯によく合うし、インド風はナンがいい。どちらも相性がいい。インド風では欲しくならないが、和風ではラッキョウとフクシン漬けが欲しくなる。それに生卵を落とせばさらにいい。このように見た目でカレーとわかるものはいいのであるが、カレー風味というのが苦手である。コロッケ、煮込み、菓子等のカレー風味である。見た目はカレーではないにもかかわらず、匂いはしっかりとカレーなのである。これには深いわけというか、悲しい過去がかかわっているからである。早い話が学生時代のトラウマなのである。

 田舎の学生街には必ずといっていいくらい、定食屋、ラーメン屋、喫茶店などが並んでいるものである。ひとり住まいには最高にありがたい店なのである。そんなありがたい店もときどき学生を裏切ることがある。某定食屋であった例を出すと、週の初めに魚の刺身が出てくるのである。要するに刺身定食というやつである。ぷりぷりとした刺身は、学生にとって最高に贅沢な定食である。週半ばになると、その魚が煮物やフライで出てくる。これも目先が変わって美味しくいただける。ここまでなら何の問題もない学生街の定食屋ということができる。問題はここから先である。予定していただけの量がさばけない時に事件が起こる。翌週になっても、大量に仕入れた魚が残った場合どうするか? 煮ても焼いてもフライにしても臭いが抜けない。捨てればいいがそれはもったいない。相手は学生である、たいして味もわかっていないだろうと思うのであろう。そして、若くて元気がいいから、少々傷んだものを食べても体調を崩すことはないだろう。火を通せばすべて大丈夫、というわけで知恵をめぐらした店主は、その魚をカレー風味のフライに仕立て上げる。そして堂々と学生に出すのである。火が通っているのでそれほど害があるわけではないが、たまに腹をこわす学生がいる。カレー風味だけでは消えないほど臭う時もある。田舎大学では店が少なく、そんな店でも食べざるを得ないときがある。

 結局この時のトラウマで、「カレー風味=腐敗臭を消す」という変な等式が出来上がってしまっている。したがって、カレー以外でのカレー風味というのは、料理ではなく消臭としか理解できなくなってしまっている。