1.規格

 人が身につけるものには必ずといっていいほど大きさの規格がある。帽子は1cm刻みで大きさが決まっている。Yシャツの首まわりや袖丈も1cm刻みに選択できる。これを組み合わせるわけであるから、かなりの種類を作る必要がある。したがって、たくさんあるように見えて意外と欲しいものにめぐり合えない。ズボンのウエストは3cm刻みであるが、こちらは自分の方が勝手に変化をするので、そのつどはいてみないと購入が困難である。最近では、購入のたびにサイズが大きくなってくるのであるが、価格は同じである。なんだか得をしたような、がっかりしたような変な気分である。サイズの表示があって最も選択が難しいのは靴である。履いた感じで、ちょっときついかなというような靴を買うと、必ずあとで後悔することになる。長い距離を歩くと足の先が痛くなるからである。かといってあまり大きなものを買うと、歩くたびにかかとが脱げそうになる。しょうがなく靴紐をきつく締めて履くと、足の幅で靴を履いているようでしっくりこない。やはり靴は足全体で履きたい。靴下の厚さや、朝晩でも違う。靴の選択は何度やっても難しい。ただ一度だけ、足にぴったりの靴にめぐり合ったことがある。それはもう、ガラスの靴を履いたシンデレラのようなものである。この靴はかかとを2度交換し、靴底を1度張り替えた。そこまでしても履きたい靴であったが、とうとう上部の皮が傷んだためにお役御免となった。同じメーカーの靴を何度も試したがしっくりこない。結局、今はこれという靴を持っていない。

 寸法表示のないものは、めがねとネクタイぐらいではないだろうか。めがねは顔につけるものであるから、そんなに大きさに差はないように思う。また、あったとしてもいくらか弾力性があるので許容できる。それに比べると、ネクタイのほうは、人の首の大きさや身長にはかなり差があるにもかかわらず、長さの表示がないのである。メーカーによっても長さがまちまちである。数種類のネクタイを持っていると、朝出かける時に1回でネクタイの長さが決まることがない。必ず標準的な締め方をして、長さを確認した後、もう一度締めなおすことになる。ものによっては大剣(上側)と小剣(下側)が同じ長さになるものや、小剣が短すぎて大剣の裏についているネーム部分に届かず、ぶらぶらとして格好の悪いものまでいろいろとある。首からぶら下げているだけで実害がないため、ネクタイを締めたときの長さは人それぞれである。個人的には、ベルトにかかるぐらいが最もよい、と思っているのであるが、さてどうであろうか? 長くても短くてもこっけいである。短いとよだれ掛けだし、長いとふんどしのように見える。特にブランド品を身につけていて、この現象があるとさらにこっけいである。ネクタイを購入するときの参考にしようと思い、手持ちのネクタイの長さを測ってみてびっくりした。最長と最短のものでわずか5cm(147~152cm)しか差がなかった。20cmは差があると思っていたが以外であった。この両者を締め比べてみて違いがはっきりとした。原因は長さよりも生地の厚みと伸び、それと大剣先から45cm上部の幅である(私の場合は大剣先から45cmのところに結び目ができるので、この部分の幅が5.5cm)。結局、長さの規格を作ってもムダということである。ズボンと同じく、購入時は試着をすることが必要である。1本につき2、3度締めなおすことになるので、ネクタイ選びは店員の冷たい視線との戦いになる。しかし、この戦いに勝たない限り、ネクタイ購入は欲しくもないよだれ掛けやふんどしの購入に変わってしまうのである。