暖冬

 夏の暑いのはかなわないが、冬の温かいのは大歓迎である。なにしろ冬のアトリエは寒くてかなわない。いくらストーブを焚いても、足元の寒さはどうにもならない。わが愛用の火鉢を足元においてどうにか暖をとっている。手は親指、人差し指、中指の第二間接から先を切り取った手袋をしている。これが例年の冬のアトリエでの作業風景である。ところが最近では、これが当てはまらないのである。とにかく暖かいのである。ストーブをつければあとは何もいらない。それどころか、炎を弱めなければ汗をかくこともある。

 喜んでいられるのはここまでである。自然とはよくできたものである。夏は暑く冬は寒い、という当たり前のことが崩れるとよくないのである。わが菜園内でもいろいろと問題が起きている。まず、ムギである。ムギは「ムギのギム」でも書いたように、冬の寒さにじっと耐えて、しっかりとたくましく育つのである。ところが暖かい冬の場合はどうなるか? じっくりと成長するはずの茎が一気に伸び、厳しい北風に耐えることができず、根元からぐにゃりと曲がってしまった。倒れ掛かられた隣の茎も同じく軟弱なため、やはりその隣りへ倒れ掛かる。このようにして全体の茎が同じ方向へぐにゃりと倒れてしまう。このような現象は、例年であれば収穫間際の穂がずっしりと重たくなったころに起きる。このころに大雨が降るとその影響で倒れることがある。冬の時期に倒れることはない。遠目にはミステリーサークルができたように見える。

 イチゴも同様に暖冬で問題が起きている。例年であれば、冬でも少し暖かい日があると時々花が咲くことがある。この花は実を着けることはない。花が咲いてそれで終わりである。ところが暖冬になると、いたるところで多くの株が花をつける。次々に花をつける。これだけを見ていると、もう春がやってきたのかと思ってしまう。4月初旬頃の光景である。しかし、冬の寒い時期では、受粉しないためか、成熟する温度が不足しているのかはわからないが、実を着けることはない。冬にこんなにも多くの花が咲くと、肝心の春先に花を咲かせないのではないだろうか、と心配になってくる。

 石の下に潜り込み、春になるまで泳ぎ回らないメダカが、水面まで上がってきてえさを要求している。冬の間は全くエサをやらないのであるが、ここまで要求されるとやらざるを得ない。美味しそうに食べて、また石の間へと入っていった。

 大事なたくあんは、発酵が進み過ぎるのが気になるところである。ちょっと早めに冷蔵庫へ避難させる必要があるかもしれない。

 日本には四季があり、梅雨もある。その気候風土で育ち、代々絶えることなく生き続けてきた生き物や習慣には、そのことが最も大事なことなのである。人間にとって住みやすいとか、快適であるというのは、ずっと生き続けてきた植物や動物、習慣からすると、大問題なのである。

 

<倒れたムギ>


<イチゴの花>