84.劣化

 家庭菜園を始めて10年近くなる。使用する補助具や資材もいろいろとある。中でもよく使っていたのがビニールひもである。しかし、これの使用はすぐにやめてしまった。理由はこのひもの劣化後の状態である。触るとタンポポの種が風邪で舞い散るようにふわふわと空中にばらけて散ってしまう。こんなものをまき散らして環境にいいはずがない。おそらく紫外線によるものだろう。不思議なくらい見事に変化してしまっている。それ以来、このビニールひもで固定することをやめている。代用品としては結束バンドを使用している。これも同様に劣化を起こし、ある日突然ぷつっと切れてしまうが、ビニールひものように粉々にはならない。ぽきぽきになって折れてしまうがすべて回収できる。

 劣化で最も身近な金属に鉄がある。数年雨ざらしにされると、赤茶色に変色し表面がざらざらに荒れてくる。厚みのあるものであれば、少々表面があれても強度的には問題はない。しかし、薄いものでは穴が開いてしまうこともある。それを防止するために、表面を塗装したり、メッキをしたりしている。わがアトリエも屋根に穴が開くのを防止するために、10年に一度くらいは塗装をしている。最近では、もう少し頻繁に行う必要を感じている。理由はカラスである。週に2度ある生ごみ日に、彼らは電柱や屋根に止まり、ゴミステーションの様子をうかがっている。そのとき、わがアトリエの屋根も中継地として利用される。静かに歩いてくれればいいのであるが、かなり激しく爪を立てて歩くので、塗装が剥がれないかと心配でならない。見た目にはそれほど目立った傷はないのであるが、音を聞く限りでは相当傷が入っていてもおかしくない。やはり、早めの手入れが必用であろうと思われる。

 人間も年齢を重ねるとあちこちに劣化が生じる。皮膚のしわやシミ、軟骨のへたりによる痛み等である。見た目の悪さも気になるところであるが、日常生活を正常に送れなくなる痛みは問題である。膝や腰は注意するに越したことはない。「自力車」で書いたように、膝には爆弾(半月板損傷)を抱えている。痛みがひどくなるようなら、人工関節以外に方法はないという。これはなんとかだましだまし使い切るほか手がなさそうである。腰はたまにぎっくり腰になる。すぐに治るときはいいのであるが、しばらく続くようなときは不安を感じる。

 以上のようにいろいろな部位に経年変化という劣化が起こる。認めたくなくても認めざるを得ない気持にさせられる。ほとんどあきらめに近いような、自然の成り行きのようなものである。ところが先日、絶対に認めたくないような劣化を宣告された。意味が分からないし、おそらく理由を聞いても納得できないだろうと思われるので、そのままにしている。それは、献血に行った時のことである。コロナ禍で輸血用の血液が非常に不足しているというので献血を申し出た。本当の理由は“輸血用の血液の不足“を補うためではない。最近、血圧が高いので、400ccも血液を抜けば、血圧が下がるだろうという安易というか情けない発想が理由である。しばらく問診が続き、いきなり「申し訳ありませんが、あなたは献血ができません」といわれた。献血するのに年齢制限があるのである。血液も劣化するのか? それとも高齢者の身を案じてのことか? できる社会貢献が一つ減ったショックよりも、一般社会が穢れたものを排除するような、そんな扱いを受けたような気にさせられた。