その他

<その1>欅盆(径:310×高さ:30mm)

 

 この欅盆は70~80年前のものである。譲り受けてからしばらくご無沙汰していたが、また最近使い始めたものである。中央部は木目の柔らかい部分が擦れ取られ、硬い部分が浮き上がっている。柔らかい部分といっても欅であるから相当な硬さを有している。それを煎茶器の使用のみでこれだけ削り取るわけであるから、その使用頻度は相当なものであったであろうと推測される。ほとんど毎日使用していたのではないだろうか。厚みのあるどっしりとしたお盆である。湯呑を乗せて持ち運ぶといった使い方ではなく、テーブルに急須や湯呑とともに置いて使用するタイプのものである。並の器ではこの風格に負けてしまう。昔の材であるため、木目がきれいないい欅を使用している。まだまだ数十年は十分に使用が可能である。



<その2>鉄瓶1

                                                            

 これは南部鉄瓶である。冬になると、アトリエのストーブの上において日常的に使用している。直径15cm、高さ21cmで3mm幅の筋が全体に入っている。落ち着いた形と色である。一人用としては十分な大きさである。取っ手が熱くなって持てなくなるので、籐を巻いた上に漆を塗って仕上げた。鉄瓶は非常に重たいので、持っただけでは中の水の量がわからない。したがって、時々中をのぞいてみなければ空焚きをしてしまう。

 さて、鉄瓶の効果であるが、実感できるほどのものは何もない。お茶やコーヒーがまろやかでおいしくなるというが、はっきりとわかるほどではない。それほど鉄分が溶け出さないのか、と聞かれれば、そうでもないような気がすると答えたくなる。説明するよりも、内部を見た方がわかりやすい。ちょっと扱い方が悪かったのか、錆が出ている。そんなことは全く気にすることもなく、これで沸かしたお湯でお茶やコーヒーを飲んでいる。

 鉄瓶は何もしないというおおらかさと几帳面さがなければ使用できない。鉄瓶は内外面ともに、たわしやスポンジに洗剤を付けてごしごし擦ってはいけない。外面は製作時、熱く熱した状態でさび止めの漆が塗ってある。これをはがしてはいけないのでそっとしておく必要がある。見えるところだけにどうしても擦りたくなる。しかし、じっと我慢である。内部は見て見ぬふりをする。気にしだすと、もう擦らずにはいられなくなってしまう。しかし、ここはじっと我慢である。内部は金気止めという処理がしてあるので、これをはがしてしまってはいけない。とはいっても、内部は赤茶色の斑点や黄ばんだような色になっているのである。この状態で使い続けることで、水垢というべきか湯垢というべきかわからないが、それを付けてしまうのである。そうすれば錆を防ぐことができ、湯もおいしくなるらしいのである。ここも我慢が必要なのである。使い終わったら、必ず湯を切り、完全に鉄瓶を乾燥させておく必要がある。この貴重面さも必要である。というわけで、ストーブの上の鉄瓶を見ている限り、古風で優雅さを感じるが、現実は全く別物である。早く美味しいと思えるお茶やコーヒーを飲みたいものである。

 

<その3>玉露器1

萩焼の玉露器である。急須、湯冷ましと湯呑が6点付いている。湯呑は直径43mm、高さが35mmである。子供がままごとで使う湯飲みより小さいかもしれない。灰色に薄いピンクが混ざり非常に美しい。湯呑の大きさからもわかるように、ごくごくと飲む器ではない。玉露は熱湯では入れない。美味しさが雑味に負けてしまうからである。湯冷ましでゆっくりと温度を下げたお湯を急須に注ぐ。じっくりと玉露のうま味を最大限に引き出し、それを注ぐ。玉露のうま味、香りと色を楽しむ器である。難点は1人分の玉露を作ることが非常に困難な点である。この湯呑に1杯分程度の量では、急須内の茶葉が完全に湯につかりきらない。仕方なく5、6杯飲むことになる。二煎目まで飲むと結構な飲みごたえである。煎茶のように喉をするすると落ちていくお茶ではない。舌の上で転がすような味わい方をするので、時間がかかってしょうがない。結局後半はごくっ、ごくっ、と次々に湯呑を持ち上げ飲んでしまうのが残念である。

 

<その4>欅茶櫃

 きれいな木目が出た、見事な欅の茶櫃である。これは小田原漆器で、天然欅をろくろで手挽きしたものである。大きさは直径:30cm、高さ:17cmで、厚みは1cmある。非常にがっしりとした作りである。特に、蓋は重量があり、厚みは2cmある。欅の大木は徐々に減少してきている。この程度の大きさの茶櫃を作る欅は、樹齢100年以上といわれている。購入時に比べてかなり色が薄くなった。漆独特の経時変化である。しっとりとしたつやが特徴である。本来ならば、ここにお茶を飲むための道具や湯呑を入れておけばいいのであるが、今はそうではない。コーヒーセットが入っている。煎茶の場合、2煎目が美味しいので、どうしても2杯飲むことになり、時間に余裕のある時しか飲めないからである。普段は、さっと飲んで次の作業へ移れる飲み物、ということでコーヒーが主になっている。瓶に入ったコーヒー豆、ペーパーフィルター等が入っている。蓋がしっかりとしているので、ごみや湿気を防ぐことができていい。鉄瓶で沸かした湯を電気ポットへ入れておき、それを利用している。ドリップが終われば、フィルターごと家庭菜園の有機肥料置き場行きとなり、まったくごみが発生しないのもいい。

 


<その5>玉露器2

 玉露器の第二弾、備前焼である。湯呑は小さく(高さ:30mm、口径:52mm)、萩焼の玉露器に比べると、口がやや広くなっている。急須と湯冷ましは、備前焼き独特の色合いをだしている。灰被りや火襷がきれいにでている。湯呑の内部はお茶の色がわかるように、薄い水色に仕上げてある。これが急須と同じ色であれば購入していないだろう。それほど、玉露は特別なお茶である。急須には備前焼独特の飾り物が施してある。蓋のつまみに小さいながらも松ぼっくりが付いている。適度なざらつきがあり滑り止めになっている。遊び心と実用性を兼ね備えている。備前焼のいかつさをちょっと和らげてくれる。

 

<その6>ぐい吞み

 

  蕎麦猪口である。直径が7cm、高さが5.5cm、と小さい方である。しかし、蕎麦猪口では日常で使うことがない。これを日常的に使用するにはどのような使い方をするのがふさわしいか? 形状を見れば持って生まれた天性の用途ともいえるものを感じずにはいられない。考えるまでもなくぐい吞みである。

 淡い藍色で、直線が斜めに重ねられて模様を形成している。白磁の骨とう品である。銘や窯元を記すものは何も記されていない。日常使いの雑器として作られたものだろう。それを現代人が蕎麦猪口(ぐい吞み)として重宝しているのである。特別凝った作りや形状ではないが、何かしら愛着を感じる一品である。とにかく使い勝手がいいのと飽きが来ないところがいい。筒状では、手からすり落ちることもあるが、これは上が大きく広がっているので決してそのようなことがない。安心して持ち、飲むことができる。全体が薄い作りであるため、口当たりがいい。冷でも熱燗でもしっかりとした量を飲めるのがありがたい。

 

<その7>片口1

 京焼の片口である。1合程度をゆったりと入れて飲むのに適している。冷でも燗でもいい。片口を後ろから抱き込むように持つと、両サイドのくぼみに指が入り安定感がいい。陶器製のため電子レンジを使用できるのがありがたい。日本酒はそれぞれの特性によって燗の温度が違うので、それを探すのに非常にいい。1合程度なら上部は熱くならないので使い易くていい。

 薄い灰色に小豆色で描かれた模様が無造作でいい。何か形あるものを描いているのではないので、じっくりと見る必要もない。全体が一体化した器としての機能だけに特化している。もちろん購入時には、水を入れて水切れの良さは確認している。これは店によっては嫌がられるが、これをせずに購入して失敗したときは最悪である。食卓のテーブルは尻漏れした日本酒でべとべとになるからである。大きく開いた口は1升瓶から入れやすく、小さな注ぎ口からは適量をこぼさずに入れられる。毎日の食卓をにぎわせてくれる一品である。

 

<その8>コーヒーカップ

 唐津焼のコーヒーカップである。直径7cm、高さ5cmと小ぶりである。色は典型的な唐津焼の色と模様である。以前は数回分を一度にドリップして、温め直して飲んでいたので、この程度の大きさの器を重宝した。しかし、今ではやや大きめのカップで飲むごとにドリップしているので、これでは小さすぎるようになってしまった。最近は使うことがなくなり、ほとんど飾りになっている。たまには、この程度の量をじっくりとドリップして飲むような余裕も必要かもしれない。

 ソーサーの一部が欠けたので、金継ぎ(漆に金粉を混ぜて接着剤として使用する日本古来の修復方法)という技法で修理をしてある。欠けたままではみっともないが、このような方法で修理をしておくとそれなりの美というものが感じられる。

 

<その9>ぐい吞み

 これは萩焼のぐい吞みである。2色の色使いで暖かみのある色合いをしている。大きさは直径6cm、高さ5.5cmである。土もの特有のぽってりとした作りである。やや粗めの土を使っているので、ごつごつとした手触りが特徴である。土ものは轆轤目に指が引っかかり、うまい具合に持つことができる。器の中は上部と同様の白っぽい色である。上部は平らではなく波打っている。飲むたびに口当たりが変わり、それがいい刺激になっている。高台は大きさも形もバランスよく作られている。熱燗の進むぐい飲みである。


<その10>片口2

 これは信楽焼の片口である。外は茶色、内側は白である。この色使いから酒飲みの気持ちがわかる作家であることがうかがえる。信楽焼はなんといっても狸の置物が有名である。じっくりと見れば色合いはよく似ている。しかし、この片口はタヌキの置物のような大きな袋はついていないが、漏らすのである。燗酒を入れてテーブルに置くと、高台部分と同じ大きさの酒溜まりができるのである。側面を手で持つとべたべたとする。土が粗く、貫入が入っているのでそこかしこから漏れるのである。水漏れで有名な焼き物として萩焼がある。これに倣って、さっそく水漏れ対策である。薄く伸ばしたおもゆを片口に入れ一昼夜置く。すると、徐々におもゆが貫入に入り、最終的にはそれが水漏れを防ぐ、はずであった。しかし何度やっても漏れが止まらない。おもゆを入れたときは漏れていないのであるが、酒を入れて燗をすると漏れ出すのである。おもゆの濃度をいろいろと変化させ、4度目でようやく漏れが収まった。今まで扱った陶器では最もてこずった。苦労したぶん愛着がわくものである。これは表面がざらざらしており、いい滑り止めになっている。形はずんぐりとして、繊細さはみじんも感じない。しかし機能的にはしっかりとしていて、酒の切れはいい。これは冷よりも燗酒に向いている。