95.行列

 いろいろな場面で行列を見かける。街中を歩いていて見かけるのは、飲食店での行列である。パンケーキ、クレープ、ピザ、ステーキハウス、洋食屋等である。行列も継続して見ていると3種類あることに気が付く。最も多いと思われるのはSNSや雑誌の影響によるものである。行列がなかった店に、ある日突然長蛇の列ができている。多くが若者で、スマホ片手に何やら忙しく指を動かしている。自撮りをしている者もいる。早速、行列の状況をアップしているのだろか。5分、10分で食べられるような行列ではない。最低でも30分は並ぶのではないか、と思われるような行列でも全く気にする様子はない。むしろスマホとともに楽しんでいるようにさえ見える。これでしばらくは行列が絶えない店となるのだろう。しかし、ブームや若者が去るとまた元通りのひっそりとした店に戻る。これが最も多いパターンである。もう一つは、このパターンが繰り返されるのである。つまり、行列ができて数か月も経つと、店の前はひっそりとして、誰もいなくなり、今までの行列が何だったのかと思うぐらい静かになる。そしてまた数か月たつと、行列が戻ってくるのである。また何かの雑誌で取り上げられたのだろう。このようなことが繰り返される店がある。そうかと思えば、かなりコストパフォーマンスの高い店でありながら、ほとんど行列のできない店もある。このような店はあまり若者が来ない。つまり、宣伝力の弱い客ばかりしか来ないので、いつまで経っても客数は増えない。こうしてみると、これらの行列には、本当に味がわかってできている行列とは思えない部分がある。流行、宣伝力による行列といったものを感じる。

 3つ目は、常時行列が続いている店である。神戸のあるステーキハウスは、もう10年近く行列が絶えたのを見たことがない。かつては安くてうまいステーキランチを食べたが、今では全く食べられなくなってしまった。常時数十人が並んでいるからである。やはり最も多いのは若者であるが、中国、韓国、欧米人もいる。別館のほうは観光バスで外国人がやってくる。ツアーの一部に組み込まれているのであろう。本当に安くてうまい店というのは、このように行列が何年にも渡り続く店ということになるのだろう。行列に並んでまで食べようと思わない人間にとっては、新装開店後数日以内の店を探し出すしか方法がない。いい店は新装開店してもすぐに行列店となってしまうからである。ネット社会の恐ろしさである。一度食べたきりでもう二度と食べられない店もある。どんなに安くて美味しくても並んでまで食べたくはない。そこまでの価値はまだ見いだせていない。自分の時間と金を使って食べるのに、なぜそこまで強制(我慢)されなければならないのかが理解できない。それともう一つ納得がいかないのが、カウンターのみで食事を一斉スタートさせる店である。養鶏場のケージに入っているようで気分が悪い。

 といいつつ、人生でただ一度、恥ずかしながら行列に並んで食事をしたことがある。ほとんど出来心であった。行列が数名だったのでそれほど待たずに食べられるだろう、という思いで並んだ。しかし、食事であるからそうそう短時間では人が入れ替わらない。そうこうしているうちに15分が経った。ここまで待てばもうしばらく・・・ということで30分ちょっと並んだ。結局、後悔と虚しさで食事を楽しむことはできなかった。どんなにおいしいものであっても、待ち時間を上回る価値を見出せないことを再確認した。