2.マナー

 公共施設の建物へ入るとき、自動ドアであれば何の問題もないのであるが、手動ドアの場合にちょっと気になることがある。ドアを開けて入り、ドアから手を離す前にチラッと後ろを振り返る。誰もいなければ手を離してドアを閉める。もし、人が来ていればその人がドアに手をかけるまでそこで待つ。この距離が意外に微妙である。あまりにも距離があるときにこれをすると、相手をせかすことになり返って迷惑となる。かと言って相手をせかせては悪いと思い閉めてしまうのもなんとなく失礼な感じがする。ほんのちょっとした気遣いであるが、関西ではあまりお目にかからない。先日、デパートの入り口を入ったところで後を振り返ると若い女性が来ていたので、ドアを押さえて待っていた。「どうもありがとうございます」という声・・・はしない。別に期待しているわけではないが、礼儀として声がかかるものと思っていた。なんとこの女性は、ドアの狭い隙間へ体を斜めにして滑り込ませて通り抜けて行ってしまった。なかなか見事な身のこなしである。ここまで見事にすり抜けられると、なんとなくこちらが間抜けに見えてくるから不思議である。「動作の鈍いおやじ」くらいにしか思っていないのだろうか。それとも自分の身のこなしの軽やかさを誇らしく思っているのだろうか。

 これも上記デパートから隣のデパートへと移動中のコンコースでのことである。地下鉄、デパート、私鉄、地下街など、いろいろなところから人が前後左右、斜めからもやってくる。ここをまっすぐに突っ切るのはなかなか至難の業である。歩いていて右側から人が来ると、歩きながらも無意識に相手との距離を測っている。このまま行けば衝突はない。相手が先に交点を通過する。こちらは相手の後ろを横切ることになる。何の問題もなく交差完了である。この逆が問題である。このまま進むとこちらが先に交点を通過する、と思って歩いていると、急に相手が走り出す。そして、こちらの前を横切る。思わずひるんで速度が落ちる。もう少しひどい場合になると、小走りになりながらも、前を横切れないと思うとコースを変えてまで前を横切る。どうしても人の後ろを横切るのが嫌らしい。このようにして、何度も人にぶつかられそうになりながら進まなければならない。最近ではかなり謙虚になり、よほどの場合でない限り、相手の後ろを横切るようにしている。そのせいで、直進することができず、人と交差するたびに半歩ずつコースがずれる。

 感覚的にズレが出ているせいで目測を誤るのか、それともめがねの度が合わなくなってきているのか・・・。感覚的なものについては、適度な運動をし、心身ともに健康であるから問題ないはずである、と本人はまったく問題としていないことが問題なのかも知れないが・・・。眼鏡はしばらく替えていないので、度が合っていないかもしれない。近視、乱視に関してはここ数年進んでいないが、遠視については年々ひどくなっているという情けない事実がある。とはいえ、こちらが相手の後ろを横切る場合は問題が発生しないのであるから、この原因は外にあるものと思われる。やはり、なにがなんでも人の前を横切りたい人が多いのが原因であるように思う。

 酒を飲んだ帰りの千鳥足では、この難所を無事に通り過ぎるのは大変である。人の流れが単純な地上を歩くことで、人との衝突を回避しようと思う。しかし、地上には衝突を絶対に避けなければならない物騒な乗り物が多く存在する。中には、千鳥足でアクセル、ブレーキを操作しているかもしれない。やはり地下のほうが安全か? いや、酒を飲まないのが一番安全そうな気がするのだが・・・。