レース編み
レース編みは、糸を細かい模様に編み込んでいく作業である。出来上がるまでに長時間を要する。レース編みのテーブルクロスなどを見ると、美しさよりも苦労の大きさをより感じてしまう。これと同じような細かい模様を編み込んだ(?)物が我が菜園内にドッカとある。これを仕上げるのに2~3週間は要している。これはテーブルクロスなどと違って、大まかな下書きがあるのでそれほど難しいものではない。しかし、これを人間が作るとなると、非常に繊細でとても無事に完成させることは難しい。このような苦労をさせたくはないと思うのだが、好んで勝手にやってしまう“やつ”がここにはいるのである。
毎年、家庭菜園にはいろいろな虫たちがやってくる。決して、招待状を出しているわけではない。いつの間にか勝手にやってくるのである。そして、勝手に作業を開始するのである。つまり、一生懸命育てたものを片っ端から食べつくすのである。虫それぞれに好物があり、それしか食べない。決して浮気はしない。この作品を作ったのはウリハムシ(全長7mm程度)である。名前が示すように、ウリ科の植物の葉と花を専門に食べる。家庭菜園では、カボチャ、スイカ、キュウリ、等が被害を受ける。カボチャ、スイカは皮が固く、実になってしまえば問題なし。キュウリは皮の上からかじられて傷がつく。最も被害を受けるのは苗のときである。ある程度の大きさに育ててからでないと菜園にデビューさせられない。本葉が次々と出る早さよりも、食べつくされる方が早いのである。結局、軸だけが残ることになる。
ところでこれだけしっかりとレース状になると、何の葉かわからなくなってしまうが、これはズッキーニの葉である。ズッキーニ? なるほど、キュウリに似ているから食べられたのか、と思われるかもしれないが、ズッキーニはカボチャ(ポペカボチャ)の一種である。例年、ウリハムシはやってくるが、この年は異常なほど多く発生した。ウリ科はズッキーニしか植えていなかったので、集中攻撃を受けた。すさまじい数のウリハムシである。人が近付くと一斉に飛び立つ。そこはしっかりと敵・味方を見分けている。捕っても、捕ってもきりがない。翌日になると、また同じような状態である。まるで湧いてくるようである。ズッキーニには雄花と雌花がある。なかなか両方の花が咲くタイミングが合わない上に、花が咲くとそれも食べてしまうので実ができない。花粉まできれいに食べてしまう。結局、ズッキーニは1本も収穫できず、残ったのはこのレース編みの作品のみである。虫でもやはりかたい部分はわかるのか、葉脈の部分は食べない。葉脈が下書きのようになって残るので、きれいなレース状に見える。これで思い出すのは、枯れ葉を過酸化水素水で煮沸して、葉脈のみを残したしおりである。記念にこのズッキーニの葉を切り取り、葉脈のしおりにしてもよかったが、何せ大きさが大きさだけに使い物にならない。畳半畳ぐらいの本があれば使えそうであるが・・・。とりあえず、菜園内での作品として写真に収めておくことにした。彼らの食欲には脱帽である。ウリ科でなく哺乳類霊長目ヒト科であることを喜ばなければならない。ウリ科であれば骨だけにされてしまっているだろう。
<食前>
<食後>