ジャスミンの香り

 ジャスミンと聞くと何を思い浮かべるだろうか。一般的なものはジャスミンティーではないだろうか。ほんのりといい香りがする。しかし、これはあまり好きではない。お茶や紅茶に混ぜ物があるのは好きではない。やはりストレートがベストである。そのもの本体を味わいたい。

 我が家のガレージに鉢植えのジャスミンがある。もう、10年近くなるだろうか。毎年のように花を咲かせては、いい匂いを周りに振りまいている。ジャスミンは木ではなくつるである。植木鉢に挿した数本の支柱にぐるぐると巻き付けて育てている。これが5月の初旬ごろに一斉に花を咲かせる。白い可憐な花である。見るからに清廉そうな花である。つぼみは薄いピンク色で先端部分がふくらみ、ちょうど書道の筆のような形をしている。枝の先に10個程度が一塊になって花が付く。ジャスミンの花を花瓶に挿し机の上に置くと、狭いわがアトリエならほんのわずかでも十分な癒しになる。ほんのりといい香りが漂う。花の寿命はそれほど長くはない。開花後は数日でしぼんでしまう。

 匂いの質はキンモクセイによく似ている。これは小さな黄色い花を枝の先全体に咲かせる。花の数にも圧倒されるが、その匂いも相当なものである。強烈な匂いの利用法がかつてあった。この木は、汲み取り式トイレの汲み取り口近くによく植えられており、その臭いを少しでもごまかそうとした暗い過去を知っている。家の北側のいかにもここにトイレがあります、といわんばかりのところに窮屈そうに植えられていることが多かった。そしてその上部の枝の大半が、生け垣や塀からはみ出している。そういった意味でも、さわやかさに欠ける。ジャスミンとは大違いである、と思っていたが、調べてみてびっくりである。両方とも同じ「もくせい科」であった。「氏より育ち」という言葉がふと浮かんできた。

 これらに比べると、道路脇の花壇に咲いているツツジにはそのような質の匂いは感じない。これも匂いの強い花の一種であるが、暗い過去を感じさせる匂いではない。これも花が一斉に咲き、数が多いので見た目にも美しい。これはジャスミン同様に気分がいい。しかし、ジャスミンのようなツンツンした匂いではなく、自然に包まれているようないい匂いである。ともに開花時期を同じくして競い合っているように感じる。

 これらの匂いを感じられるくらい、ゆったりとした気分で過ごせているのが幸せである。見る、聞くだけが主役の忙しい現代であるが、匂いという最も根源的な感性を思い出させてくれる。あと数週間はこの匂いとともに過ごすことになる。すばらしい感性が芽生えそうである。明日からの(今日からではない)創作活動に変化が出ること間違いなしである(これはあくまでも本人の期待を込めた感想です)。