ムギの執念
わが菜園では、冬の閑散期にも緑を、そして、有用な菜園資材を得るためにムギを植えている(菜園日記:ムギのギム参照)。その時は気がつかなかったが、最近になって気がついたことがあるので、コラムに書くことにした。いわば、「ムギのギム」の続編である。
毎年イチゴをプランターで100株程度栽培している。イチゴは実が柔らかいので、土に接すると傷つくことがある。雨が降ると土が付き、洗い流すときにも傷がつく。これらを避けるために敷き藁をする。毎年のことであるが、その敷き藁から大量にムギが発芽する。引き抜くと麦の穂が持ち上がってくる(まるで冬虫夏草のようである)。その穂の中の数個の種が発芽しているのである。気を付けて出穂する前に刈り取っているのであるが、必ず大量に発芽する。不思議に思いながらも、毎年発芽したムギを抜いていた。
今年は例年よりもさらに早い出穂前の時期に、敷き藁用のムギを刈り取り、物干し竿に掛けて乾燥させていた。ある日、何気なく見たムギに異変を感じた。逆さまに干しているムギのほとんどすべてから穂が出ているのである。出穂前に刈り取って干したものが、わずか1週間で出穂したのである。出穂したとはいえ、さすがに実はスカスカである。完熟したムギのように丸々とは太っていない。しかし、例年のことを考えると、ひょっとするとこれが発芽するかもしれない。これはぜひ確かめてみる必要がある。一部の穂を切り取り完全に乾燥させた。それを数十個菜園の土に蒔いた。
結果は・・・、発芽することはなかった。麦の先端に薄っすらと穂の影が映ったころに収穫したので発芽は免れた。例年のように穂が見えてからでは遅く、発芽してしまうことになる。ムギは冬の寒い時期を乗り越えて実を付ける。芽が出てしばらくすると、踏みつけて分けつ(1株から出る茎の数を増やす)を促す。寒さで霜柱ができると、根が浮き上がるために踏みつけて定着させる。これでもへこたれることなく、しっかりと育ち冬を越す。それくらい麦はたくましい植物である。このたくましいムギの性格を忘れていた。たとえ刈り取られても、子孫を残すために最後の力を振り絞り、軸に蓄えられた水分と養分で発芽に必要最小限の生命力を種に送り込むのである。
全く穂が出ていない時期の麦は、茎が細く背も低い状態である。これでは敷き藁としての役割が半減である。そのため茎が太くなるまで、もう少し、もう少しと期間を延ばし育ててしまうのである。4月に入り暖かい日が続くと一気に出穂が始まる。麦の先端にそれらしきものが薄っすらと見えだすと、敷き藁用に指定した場所のムギをすべて刈り取る。発育の悪いところでは、軸が細く敷き藁には不向きと思われるようなものもある。ムギの戦略に引っかからないように、ここは心を鬼にしてすべてを収穫してしまう。未熟な細いムギは、刈り取ってすぐに乾燥防止用としてアスパラなどの敷き藁にする。べったりと土になじむかと思いきや、穂の先端を持ち上げて上へ伸びようとする。ここでもものすごい生命力を感じる。このたくましさを、イチゴにも分けてやりたい。いやそれよりもイチゴ自らに吸収してもらいたい。
イチゴよ、強くなれ! そして、天敵のナメクジを弾き返せ!
<刈り取り直後>
<1週間で出穂>
<穂先を持ち上げる>